7141 企画展「甲斐荘楠音の全貌」
東京ステーションギャラリーで開催中の企画展「甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性」を鑑賞。
甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)は、大正から昭和初期にかけては日本画家として、戦後は映画業界に転身して美術や時代考証などで活躍したというが、初めて知った人物だった。
ポスターなどで紹介される彼の作品を見ると、ちょっと忘れ難いほど、強く印象に残る。
事前に予習していった情報によれば、あの岸田劉生が彼の作品を「デロリ」と評したとか。
なるほど、たしかに麗子像に通じる“デロリ感”がある。
興味深いと思ったのは、何年もの期間を置いて同じ構図の作品を描いたり、何年ものあいだ描き続けて、結局完成に至らなかったり…と、相当なこだわりがあったということだ。
特に“デロリ”とした独特な表情の作品を見ていると、描かれた女性の、けっして窺い知ることのできない何かが伝わってくるような気がした。
膨大な新聞や雑誌からの切り抜きの展示があった。
解説には、画像データベースのような意味があったのでは…とあったが、将来の作品の参考にしようとしたようだ。
なかには、田中角栄や橋幸夫、パンチを喰らった高倉健などの写真もあった。
どういった意図を持って残したか分からないが、きっと何か感じるものがあったのだろう。
後半は、彼が映画の世界で活躍した実績を、ポスターと衣装を中心に紹介している。
戦後の映画業界については、かなり複雑でよく分からないところも多いが、北大路欣也とか里見浩太朗の名前を見ると、本当に長く活躍してるんだな…とこの企画展とは関係ないところで感心してしまった。
予習したときに出てきた“デロリ”という表現が、この企画展で使われていなかったのは、何かしらの意図があるのだろうか?
実際、同じ構図や作品を描き直すと、最初に描いた“デロリ感”がなくなっているのも関係しているだろうか?
自身が創作した作品ばかりでなく、自分自身が扮してしまった写真などもあって、いまでいうところのマルチアーティスト的な人だったのだろうな…と思った。