6826 長谷川潔 1891-1980展
町田市立国際版画美術館で開催中の企画展「長谷川潔 1891-1980展― 日常にひそむ神秘 ―」を鑑賞した。
どの程度知られた版画家なのかわからないが、少なくとも今回のこの企画展まで知らなかったし、日本でもそれほど知られているとは思えない。
フランスから勲章を受けていたり、Wikipediaによれば、フランスの国立貨幣・賞牌鋳造局からメダルが発行された日本人は、葛飾北斎、藤田嗣治に次いで三人目だそうだ。
長谷川潔は、27歳のときに渡仏して89歳で没するまで、一度も日本に帰国しなかったらしく、あまり日本で知られていないのは、そのせいもあるのかもしれない。
特にメゾチントによる作品で有名だそうだが、メゾチントといえば浜口陽三なら知っている。
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今回の企画展は、展示されている作品の数がとても多く、長谷川潔の関心の向いている方向や、移り変わりなどがわかるような気がした。
写真撮影も限られた作品とはいえ、特定のコーナー場所限定ではなく、企画展全体でまんべんなくできるようになっているので、けっこういろいろ撮れる。
日本で活動していたころは、抽象的な人物の姿や裸婦像が多かったが、渡仏すると風景や静物がモチーフになるケースが増え、竹取物語のフランス語版の挿絵を担当するなどの活躍もあった。
終戦後は、引き続き静物や窓越しの風景などがよく見られた。
モチーフには、さまざまな意味を盛り込んでいると解説にあって、それを読むと、作者の心の変化が作品にどう表れているのかが、”なんとなく”伝わってくる。
戦争による侵攻を受け、残った1本の樹が、まるで立っている人物に見えて来たという啓示から、その後、樹木や草花などの自然を通じて見えない世界を描いていくことになったそうだ。
先日鑑賞したリヒター展では、あまり作品は詮索しすぎずに、感じるだけにとどめておかないと、なんとなく疲れてしまう気がする…と思ったが、作者の思いが伝わってくると作品の見え方ががらりと変わってくるのは、やっぱりおもしろい。