4953 高島野十郎展
正直言って、聞いたこともない作家だったが、以前から、おじゃこが行きたいと言っていた企画展だったし、写実的な絵は僕も好きなので、一緒について行ってみた。
目黒区美術館へ。
最終日ということで、会場内はけっこう混雑していた。
高島野十郎は、東京帝国大学農学部水産学科を首席で卒業するものの、念願であった画家となり、独学で絵の道を究めていく。
「蠟燭」や「月」シリーズなどは、彼の作品として有名だったらしいが、僕は今回初めて知ることになる。
「雨 法隆寺塔」は、ちょっと変わった経緯を経てきたことが紹介されていた。
これは個人所有の作品で、かつて、過去に盗難に遭ってしまったという。
その4年後、無事発見されたものの、床下という劣悪な環境に置かれていたために、カビに覆われ、もはやどんな絵が描かれているかわからないくらいに劣化してしまう。
ひどい状態から絵は修復されたのだが、今度は、なんとその個人宅が全焼する火事に見舞われる。
焼失は免れたものの、この作品は、ふたたび見るに耐えない状態となる。
再度の修復が行われ、その結果が、いま展示されている作品だった。
高島野十郎の絵が極めて丁寧に描かく技法を用いていたからこそ、2度の修復にも耐えたのだという。
全体を通して、彼のさまざまな作品を見てみると、"写実"というものをあらためて考えさせられた。
当たり前ではあるのだけど、"見たモノをそのまま"…というわけではなく、あくまで、作家によって意図的に作り上げられた世界であり、作家の目に映った"写実"なのだ。
これは、決して悪い意味で言っているのではなく、それこそが、作者の主張したいことであり、以前から、僕が意識している、「作者との対話」の重要なテーマなのだと思った。