4148 ジジィと呼ばれた日
いつものように会社に向かう。
ただこの日は、準備が順調に進んだせいか、ふだんより10分ほど早い時間の電車に乗ることができた。
10分程度だと、車内の混雑ぶりは、ふだんとほとんど変わらなかった。
とある駅に着いたとき、出入口付近に立っていた僕は、いったんホームに降りた。
下車する人がいなくなったのを見計らって、ふたたび電車に乗り込んだ。
吊り手(吊り革)の空いてるところに向かったところ、車内の奥からも、この空いた場所を狙って、ものすごい勢いでやってきた男性と一瞬目が合った。
お互い、勢いよくその場所に向かったため、彼と肩がぶつかってしまった。
一瞬僕の方が早かったのと、こちらの勢いが強かったせいで、彼が押し出され、僕がその場所に収まった。
すると、彼はこう言ったのだ。
「ざけんなよ、ジジィ」
・・・
攻撃的な態度に驚くより、僕が、彼から見ると、もうジジィと言われる容姿になってしまったということに、複雑な気持ちになった。
そうか…僕は、もうジジィなんだ…。
僕は、「この場所に立つかい?」と、いま僕のいる場所を指で指し示した。
すると、彼は、視線をそらし、手を挙げ、かぶりを振った。
僕は、妙に気になって、しばらくこの男性を見ていた。
彼は、混雑した車内の真ん中で、吊り革を掴んで離さず、駅に着くたびに降りる人の妨げになっていた。
周囲の状況を理解できず、思いついた、不平や不満を抑え込むことができず口にしてしまう…彼の未来は、あまり明るくないように思えた。
いや、それよりも、僕はもう、ジジィなんだ…ということの方が、ずっと引っかかっているのだけど。