通天閣/西 加奈子

■文学・評論,龍的図書館

4480803998 通天閣
西 加奈子

筑摩書房 2006-11
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数年ほど前、初めて通天閣を訪れたとき、そこは予想通りの“カオス”であった。

通天閣といえば、こてこての大阪のイメージそのもの。実際の通天閣周辺も、申し訳ないけど、品のいい雰囲気ではなかった。けれど、不思議と、居心地の悪さみたいなものは感じなかった。

数年前訪れた通天閣

この物語の舞台は、そんな通天閣周辺。

2人の主人公を中心に話が進んでいく。2人は、それぞれ通天閣近くで暮らしているが、微妙に絡む部分はあるものの接点は全くなく物語は進む。

飾り気のまるでない登場人物たちは、みんな自分に正直に生きている。

そうした生き方は、彼らの希望である一方で、そういう風に生きるしか方法がないという感じにも見える。「自分に正直に生きる」というのは、、それはあくまで強い意志を持った者にとっては幸せなことかもしれないが、実はとても大変なことなのだ。

そして自分に正直に生きるためには“本当の自分”を知る必要があるはずだが、実は自分にもわからない代物なのだ。だから「自分というものはこんな感じかな?」という姿を勝手に想像することで、それに合わせようとするが、あくまで想像に過ぎないので、微妙なギャップに苦しむ。

主人公の2人は人間嫌いであることも共通している。

しかし否応なしに、人との接点が生じてしまう。

本当に全く誰とも交わらずにいられるのであればいいけど、決してそんな生き方はできない。この世に生を受けた時点で、世の中と関わりを持ってしまっているとも言えるのかも。

かなり強力な脇役陣は、こてこての大阪の雰囲気をよく表している感じで楽しい。配役をうまくやれば、テレビドラマ化もできそう。

主人公の2人は、最後まで直接関わることはないが、最後のある事件によって、それぞれ同じ結論を見いだす。

それは、この物語の読者に対するメッセージにも思えた。