廃電車レクイエム/丸田 祥三
廃電車レクイエム―昭和の空地にあった不思議なのりもの
岩波書店 2008-08 |
バスとかトラックの廃車体が置かれているのを見ても「あぁまた不法投棄か」と思うだけだが、これが電車だと、まったく違った印象を受ける。それは僕が鉄道に興味を持っているからということもあるだろうし、レールの上しか走れないはずの電車が無関係の場所にあるという違和感からかもしれない。
板橋交通公園にあった都電(2003年7月) |
かつて、公園や広場にはSLとか路面電車などが置かれていたものだが、最近ではだいぶ見かけなくなった。そもそもSLも路面電車も、引退してかなりの年月が経ってしまい新たに“供給”されることはないことから、設置場所が増えるということはあり得ない。そして車両という“鉄のかたまり”が、こまめにメンテナンスされていない状態で、雨ざらしで放置されれば腐食は進んでしまう。少しでも危険と判断されれば、撤去されるのは時間の問題である。
まるでこの本を出版することが運命づけられていたかのように、著者は小学生のころから朽ちた電車を撮り続けていたのは、ちょっと驚きだ。撮影時8歳だったためにアングルが低い写真もある。そのころは、まだまだたくさんの“廃電車”が散在していたのだろう。
そんな不遇の廃車両の風景を、小学生のころから撮り続けたという著者の“ブレない”姿勢には驚く。
公園や保育園等で遊具になった車両…
自然の一部となってしまった車両…
建物に組み込まれた車両…
崩壊寸前でわずかに原形をとどめるだけの車両…
ただの廃車体なのにどこか寂しげなのはなぜだろうか?
やはり魂が宿っているような気がしてならない。そして、そんな風景も徐々に消えつつある。そんな様子を捉えた写真は、まさに鎮魂歌(=レクイエム)なのかもしれない。