7144 飛び立てなかったセミ
一昨日の夜、会社からの帰りがけに、歩道の上を何かが動いているのをみつけた。
セミの幼虫が羽化するための場所を探しているようだった。
このまま歩道の上を歩いていたら危ないと思って、“保護”することにして、家に連れて帰った。
久しぶりではあるが、これまで何匹も無事に羽化させているし、実際問題なく羽化が進んでいた。
そして、幼虫の殻から抜け出て、体勢を立て直そうとした瞬間…
ポトリ…
自分の身体を支えきれず、床に落ちてしまったのだ。
ひっくり返ってしまって元に戻れなくなっている。
慌ててもとの場所に戻そうしたものの、抜けた殻にしがみつけず、すぐに落ちそうになる。
もう掴まることはできなさそうだったので、仕方なく下におろしたが、そうなると羽を伸ばすことができないので、このままだと羽化不全になってしまう。
なんとかして羽を伸ばせる状態にしたかったが、歩き回ろうとしてなかなか落ち着けることができなかった。
しばらくしてようやく落ち着いたので、そのままにして…翌朝。
同じ場所にしっかりとした姿のセミがじっとしていた。
触れると脚を動かしたのでホッとしたものの、ゆっくり動くことはできても、肝心の羽根はまったく動かせない状態のようだった。
どうしようか悩んだが、摂理というか、運命と考えて、もとの世界に戻すことにした。
このまま野に放てば、それは死を意味する。
しかし、羽化に失敗した時点で死が早まったことは決まったことなのだと考えたら、気の毒ではあったが、仕方のないことなのだ。
意味のないことだとはわかっているが、できるだけ日陰の穏やかな場所にセミを置いた。
決して飛び立つことはできず、ただ木を見上げることしかできない状態だった。
・・・
そして、昨夜。
また、別のセミの幼虫が、路上を歩いていた。
ときどき見かけることはあるが、2夜連続というのは初めてかもしれない。
…ということで、連れて帰って、再度羽化の様子を見守ることした。
多少危なっかしいところもあったが、今回は無事に羽化して、今朝飛び立った。
それを見届けたら、少し気持ちが落ち着いた。
自分の身近な自然では、そういったことが無数に起きているのだろう…ただ目に見えていないだけで。