おみやげと鉄道/鈴木 勇一郎

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鈴木 勇一郎
講談社
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おみやげというものは、日本独特の文化らしい。

日本では観光地に行けば、いたるところで、おみやげが売られているが、海外では、ここまでたくさん売っているところは見かけない。

現在のように、おみやげが広まったのは、鉄道の発達によるところが大きいようだ。

おみやげのはじまりは、日清戦争の際、大本営の置かれた広島に帰還した大勢の兵士たちが、故郷で待つ家族や地域の人たちのために、岡山の「吉備団子」を買っていった…ということらしい。

岡山の山陽鉄道(現山陽本線)沿線という地の利と、初めての外国との戦争が鬼を征伐した桃太郎のイメージが合致し、飛ぶように売れたという。

何気なく使っている「おみやげ」という言葉。英語の「 souvenir 」とは、厳密には異なるらしい。

souvenir(スーベニア)の元となった、 フランス語のsouvenir(スーベニール)は、旅に出かけた「当人」の思い出としての意味合いが強いものだというのだ。

西洋のおみやげ屋の店頭に並んでいるのは、自分の部屋に飾りそうな工芸品が大半だという指摘や、先述の吉備団子のようなエピソードを知ると、なるほどと思う。

おみやげとして、お菓子をはじめとして食品が多いのも、そうした自分のためではなく、他人のために買っていくということに影響しているのだろう。

もともと、門前や道中の名物の多くは、街道を行き交う旅人たちが休息の際に摂る、間食として発達してきたものである。

かつては運搬や保存の技術が未熟であったため、そうした食品はその場で食べられるもので、現在のようにおみやげとして売られていたものではなかったのだ。

これまで、日本のおみやげや名物は、その土地にまつわる由緒や来歴が重視されてきた。それが、その土地で、おみやげとして売られる理由となったのだ。

しかし、その土地との必然的な結びつきが希薄になっているおみやげも多くなっている。

例えば、仙台の「萩の月」や、札幌の「白い恋人」などだ。

萩の月は当初カビが生えやすく売れ行きも芳しくなかったそうだが、脱酸素剤の登場で新鮮な風味を保つことに成功。その後、仙台福岡線で機内食に採用され、さらにテレビで紹介されたことで人気を呼んんだ。

白い恋人も、同様に、機内食に採用されたことで大きな反響を呼んだ。

「東京ばな奈」に至っては、東京では生育していないバナナが名物なのだから、不思議としか言いようがない。

でも、誰もが知ってるとなれば、その土地で、おみやげとして売られる理由となる。

その土地に行ったことを郷里の人々に証明でき、配りやすいという機能を兼ね備えていることがおみやげとして、十分な意味を持つのだ。

吉備団子、八ツ橋、鳩サブレー、赤福、もみじ饅頭など、まさに、“KING OF おみやげ”といった商品の歴史や、巻末に600を超える膨大な参考文献の紹介など、よくぞここまで調べたと思わせる。

タイトルにある“鉄道”が、おみやげの発展に大きく影響したことは間違いないが、タイトルにするほどは取り上げられてなかったような気がしたのは、鉄道好きとしては、ちょっと残念だった。

Posted by ろん