戦争廃墟/石本 馨
戦争廃墟
石本 馨
ミリオン出版
よく利用させてもらっている北区立中央図書館は、自衛隊十条駐屯地の隣にあるが、かつて旧東京第一陸軍造兵廠だったところだ。
ここに煉瓦造りの大きな建物があって、以前から気になっていたものの、立ち入りはできず、不思議な雰囲気を醸し出していた。
まさに“戦争廃墟”という雰囲気だったが、いまではすっかり変わってしまった。
そんな、いまでも残っている戦争のために作られたさまざまな建築物を紹介している。
写真と取材時の著者の印象などは豊富に載っているものの、“資料”としては物足りなさを感じた。というのも、たくさんの廃墟が日本のどういったところに分布しているかを示す地図は載っていないし、廃墟となる前の姿などもわからない。あくまで、“廃墟”となった姿の写真集ということなのだろう。
でも、後半あたりから、当時人間機雷「伏龍」や水上特攻「震洋」などに関わった方々へのインタビューも掲載されていて、必ずしも写真集という枠に収まっているわけでもないようだ。
写真はとても興味深く、廃墟から何かを訴えかけられるような気がした。
それだけに、“戦争廃墟”という本なのだから、かつての軍事施設の紹介だけに徹しても良かったのではないかと思った。
特に、人間魚雷と言われた「回天」の訓練基地に配属された方へのインタビューで、どうしても気になったことがあった。
私は常々、回天は非人道的な兵器どころか人道的な兵器であると公言しています。
己の命を捨て、何千、何万の命を生かす、これぞまさしく人道ではないか。(p.130)
戦争で多くの仲間を失い、大変な苦労をされた方であることは、十分承知しているが、これは決して言ってはならないことだと思う。
もしこれがまかり通るならば、東京大空襲も、広島、長崎への原爆投下も、みんな正当化されてしまうではないか。
戦争に、人道も非人道もないのだから。