迷い迷って渋谷駅/田村 圭介
光文社
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2013年3月16日、東横線渋谷駅地下化という一大イベントに前後して、世の中も当然?僕も、渋谷駅にはすごく注目をしていた。
昨日5月6日には、2ヶ月弱のイベント会場として使われていた旧渋谷駅のお別れ会が開かれたという。
この本は、そんな渋谷駅を徹底的に調べ抜いたと感じた一冊だ。
鉄道、歴史、建築…と、さまざまな角度から渋谷駅を徹底的に調査・研究し、バランスよく紹介している。
今でこそ複雑な渋谷駅だが…
渋谷駅も初めは、セオリー通りに正しくしたがっていた。時代の要請を真面目に受け入れてきたつもりが、気がつけばハチャメチャな姿になってしまっていた。それが渋谷駅の現状だ。(p.221)
渋谷駅は、山手線の他の駅と違ってくぼんだ土地にある。そのために接続する鉄道も、通過式あり、頭端式あり…と、どうしても立体的にならざるを得ない。
興味深いと思ったのは、「表の東京駅に対して、裏の渋谷駅」という表現だった。
皇居を飾る重要文化財の東京駅に対し、増加する一方の民衆のためにつぎはぎを重ねたのが渋谷駅だという。
渋谷駅が、現在のような姿になるのは、ある意味必然だったのだ。
そんな渋谷駅は、「実は駅は見えない」というと、?と思ったが、確かに、見えているのは東急百貨店の建物だ。
東急百貨店の一部である、東急百貨店東横店西館には、巨大な広告が貼り付けてあるが、当初は、まったく何もない壁だったという。
近代建築において装飾の何もない壁は、そこに記号やシンボルがないことで大きな意味を持っていた。その記号やシンボルによる過去の場所性や階級や社会性を払拭した新しい美学であった。(p.189)
「純粋な何もない壁面自体が、ある種の装飾であった」という指摘は、広告に侵食されていく街に苛ついている僕としては、すごくいいと思った。
エピローグに書かれていた文章が印象的だった。
竣工当時日本一の高さを誇った東急百貨店西館のころと、今後、ヒカリエに続いて5つの超高層ビルが建ち並ぶという現在の不安は、実は同じではなのではないかという指摘。
未来が見えないという不安。
でも、渋谷駅は…
過去を背負って未来に挑んできたという立派な痕跡の上にできている
つまり、今後渋谷はどう変わっていくのだろうという不安は、繰り返されるのかもしれないという。
それこそが渋谷駅の渋谷駅たるゆえんなのだろう。
ほんと、渋谷駅は、エピソードに事欠かない。五島慶太、渡辺仁、三島由紀夫、忠犬ハチ公、坂倉準三…
読み応えじゅうぶん。
残念だったのは、とても興味深い研究成果の記録の文字や絵が小さすぎてよく見えないということだ。
タイトルこそ「迷い迷って」だけど、読み終えたいまは、迷うこともなくなりそうな気がしてきた。