森林飽和/太田 猛彦

科学

太田 猛彦
NHK出版
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この本を読んで、常識と思っていたことがいくつも覆った。

【森は現在よりも古い時代の方がひどい状態だった】

タイトルこそ「森林飽和」だが、前半の多くの部分は「森林破壊」について割かれている。

かつての日本では、木は、燃料としても、建材としても大量に使われきた。資源は、森にしかなかったわけで、その結果、徹底的に破壊しつくされてきたのだ。

実際、狩り尽くされてしまい、木がほとんど写ってない古い写真や、歌川広重の絵にも、地肌むき出しのはげ山が描かれている。

日本じゅう、かつては、はげ山ばかりだった。

もちろん、回復の努力も続けられてきたが、戦後急激な回復をした決定的な理由は、エネルギーは化石燃料へ、肥料も化学合成されたもに変わったため、森を必要としなくなったことによるという。

さらに安い外国産の木材が輸入されるようになれば、必然の結果だった。

たった四、五十年ではげ山は姿を消してしまうが、今度は、飽和状態となっているのだ。

 

【森は肝心の渇水時に水を増やさない】

森林は渇水を防ぐということは、よく知られている事実だと思ったら、実はそうではないらしい。

一週間から10日程度ではなく、少なくとも3週間あるいは一ヶ月以上雨が降らない場合、森林の存在よりも、蒸発のほうが影響が大きいいらしい。

森林には洪水緩和機能はあるが、森だって水を使う。葉についた水がそのまま蒸発する場合もあり、実は、森を伐採すると、水の流出量が増えるのだ。

当然といえば当然だけど、意外。

森林が成長した結果、土砂崩れなどの災害は激減した。

そして、その影響で海辺の砂が減り、飛砂被害が少なくなっていると同時に、海岸はどんどん削られていっているという。

あとがきにもあるように、「森が減っているからどうしようか」と考えることと、「増えている森をどう扱おうか」と考えることでは結論がまったく異なってしまうというのは、その通りだと思う。

森林や海岸で起きている諸問題は、複雑に絡み合い、単純な答えはないが、まずは歴史や事実を認識した上で、常識にとらわれない検討が必要だと思った。

むしろ、土砂災害のないような山崩れを起こさせるくらいの発想の転換があってもいい…という著者の意見も興味深いと思った。

Posted by ろん