東上線各駅短編集/曠野 すぐり
- 東上線各駅短編集
- 曠野 すぐり
- まつやま書房 (2012/10/1)
本書は、池袋駅~寄居駅の全長75kmを結ぶ東武東上線の全駅を舞台にした、それぞれが読み切りの短編集だ。
どういったきっかけで、この本の存在を知ったかは忘れてしまったが、そのとき「東上線が舞台の小説なんておもしろそう!」と、単純にそう思った。
以前読んだ「阪急電車」がとてもよくできた話で、もし身近な東上線だったら、どんな話になるだろう?と、思っていたからだ。
しかし、読み始めてみるとすぐに、いろいろと違和感が出てきた。
まず、ひとつひとつの話に、あまり感情移入できず、話に引き込まれるといったことがなかったということだ。
それぞれの話を読み終えても、心に残ることがあまりなかった気がしたのは、僕の読解力に問題があるとしても、違和感を覚えた大きな理由は、それぞれの話に東上線らしさや各駅の特徴といった要素が少な過ぎると感じたことだった。
実際、著者は、あとがきで、「東上線には特徴がなく、なんとか全駅書き上げた」…と、吐露している。
いわば、“無理して”書いている感じが伝わってきていたのだ。
「阪急電車」とはコンセプトが違うのだから、同じイメージを求めるのは酷かもしれないが、わざわざ東上線という舞台で話を書いているのだから、もうちょっと頑張って欲しかった。
さらに、もっとも気になったのは、何度も通ったというわりには、明らかな事実誤認や、おそらく想像や地図上だけで判断したのではないか?と思われる箇所も散見されたということだった。
副都心線などまだ開通してなく、環七に沿って夜間に工事をしている頃だった。(和光市p.66)
→ 副都心線が建設されたのは、環七ではなく明治通りの地下。
線路は上り線が二本、下り線も二本、そして引き込み線が二本のはずなのに、ポイントがたくさんあって何本だかわからない(志木p.76)
→ 引き込み線ではなく、引き上げ線だし、その本数は2本ではなく、正しくは4本。
この踏切は、かなり待たされることがある。東上線の本数の多いところに持ってきて、駅近くということで減速する。しかもJR川越線まで一緒になっているので、へたをすれば五分近く待たされることだってある。(川越市p.117)
→ 川越駅近くにある踏切と誤認か? 川越市駅付近の踏切はJR川越線とは別。
ドアの横、それも開閉ボタンの設置されていない側にうまく陣取れた育美は、ほどよいペースでページを繰っていった。(鶴ヶ島p.143)
→ 埼京線内の記述だが、埼京線に開閉ボタンのある車両は存在せず。併走する宇都宮線や高崎線と誤認か?
こういった誤りがいくつも散見されると、物語を楽しむということが難しくなってしまう。
ずっと東上線沿線で、東上線とともに過ごしてきたと言っても過言ではない自分にとって、東上線の名前を冠した本が、ちょっと期待はずれであったことは、かなり残念だった。