アポロ11号 月面着陸から現代へ/ピアーズ・ビゾニー

■科学,龍的図書館

ピアーズ・ビゾニー
河出書房新社
売り上げランキング: 469,984

 

望遠鏡を買ってから、月を見る機会が増えた。

そのたびに、「あの月に人間が行ったんだよなぁ…」と、しみじみ思う。

この本は、まるで大判の写真集のようで、当時のようすを写した美しい写真と、さまざまなエピソードで、アポロ計画を余すところなく紹介している。当時の管制官や飛行士のコメント、はては陰謀説に関する話題まで。

特に素晴らしいのは、掲載されている写真だ。それこそ“スタジオのセット”だと言われたら信じてしまいそうなくらいだ。

NASAが使う略語は、医療用語のように性格で、定義がはっきりし専門的で、感情が排除されている。おそろしい事態につながる燃料漏れが発射台で見つかったときには、「異常な排出」があったと言い、シャトルの大爆発は「重大な不調」となる。人が死んだとか殺されたとかは言わず、乗組員の「応答がない」という。(p.53)

着陸直前、地球側の通信士からたったひとこと「60秒」と言えば、それは、「地上で表示されているエンジンの燃料が残り60秒分しかないが本当か?着陸船の表示はどうなっているのか?墜落しないよう十分注意してくれ」という意味だったという話は、死と隣り合わせで仕事をしているプロならではの話だ。

とても示唆に富む記述があった。

アポロ計画が残した重要な遺産は、テクノロジーではなく、教訓である。(p.74)

その教訓とは、人は往々にして信頼されることで、最高の仕事をするということだった。

当時、技術的にはけっして準備が整っていなかったのに、月面着陸を成し遂げてしまった。 それは、「人類を月へ!」という世の中の圧倒的な支持と信頼があったからこそだった。

現代の方が、圧倒的に技術やノウハウを持っているにもかかわらず、実現が難しそうな理由はそこにあるのだろう。

もしかすると、テクノロジーのほうは、あとから付いてくるとすら言えるのかもしれない。

たとえば、アポロに搭載されていたコンピュータは、作業メモリは256キロバイトしかなかった。いわば、“おもちゃ”程度のコンピュータだ。現在の方が、圧倒的に性能がいいコンピュータがある。しかし、当時の“おもちゃ程度のコンピュータ”の、信頼性は絶大だった。もし、コンピュータがクラッシュしてもわずか0.5秒で回復できるよう設計されていたのだ。

現在のコンピュータではどうか?決して当時のコンピュータは時代遅れでなんかではないのだ。

生まれて初めて、飛行機で出掛けた海外旅行が、アメリカ ワシントンDCの、スミソニアン国立航空宇宙博物館だった。

そこで、地球に帰還し黒焦げになったアポロ11号の司令船を見たときの感動は、いまでも忘れない。

まさに、月面着陸は、人類にとって「やればできる」を体現した出来事だったが、将来、僕が生きているあいだに、また人類が月に向かうことあるだろうか?

Posted by ろん