最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか/ジェームズ R・チャイルズ 高橋 健次
最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか ジェームズ R・チャイルズ 高橋 健次 草思社 2006-10-19 |
この本は、図書館で、何気なく見つけた。タイトルを見たとき、ちょうど、いま福島第一原子力発電所で起きている事故のことを思い出した。
ひどい事故や一歩間違えれば事故に至ってしまうような、約50あまりのケースが取り上げられている。
この本を読んでみて、実際に最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか?という問いに対する回答は…
誰もが一生懸命仕事をしていた
…という印象を持った。
もちろん、一部の例外を除いて…という注釈は付くし、誤った手順や段取りがきっかけで大事故に繋がるケースはあるが、それでも、多くの場合、過酷な状況の中で、一生懸命仕事をしているのだ。
事故は、突然発生するわけではなく、必ずなんらかの兆候があるものだ。
最初のころの、小さな兆候や問題が見落とされ、最悪の事故に向かって突き進んでいく様は、まるで小説か何かを読んでいるかのような気がしてしまう。
…が、どれも現実に起きたことばかりなのだ。
排水ポンプの、基本的な仕組みを理解せず、焦って冷静な判断を失っていたために、洋上石油掘削基地を崩壊させたり…
アポロ13号の事故では、酸素タンクに取り付けられた内部の温度を示すメーターが27度しか上がらないことを前提に作られていたために正しい表示にならず、実際には、なんと538度にも達していたため、爆発してしまったとか…
スリーマイル島原発事故でも、同様に温度を表示するコンピュータの表示が、140度までしか認識できないようになっていたため、結果的に“騙された”…など。
事故が起きる直前にも、何らかの兆候がある。いま何が起きているのか? それを正しく把握することができるかどうかで、結果は大きく変わってくる。 正しく把握できないと、「現実を見ず、飛躍した結論を出す」ことに繋がってしまう。
もっとも危険なのは、運転員自身が自分は何がわかっていないのかを知らない場合と著者が指摘するが、本当にその通りだと思う。
徴候を敏感に感じとる能力を磨いていれば、事故を未然に防ぐことができる。
1軒の家の火事の消火に踏み込んだ消防士が、火災の規模から十分の水を撒いたはずなのに火の勢いが衰えない状況に疑問を感じ、消防隊の全員避難させた直後、家全体が崩落したことがあったそうだ。原因は、この家には地下室があり、そこが燃えていたために火が消えなかったのだ。
どんなときも、冷静な判断が求められるという好例だ。
スペースシャトル、チャレンジャーの事故 早くしなければならないという焦りから発生したとされるが、その50数年前にも、同様の理由から、イギリス巨大飛行船R101が墜落事故を起こしている。
また、事故を未然に防いだという例も載っている。
ニューヨークのシティーコープセンタービルは、ビルが風から受ける荷重の計算ミスにより、かなり高い確率で崩壊する恐れがあるということがわかってからの対応について。
ビル崩壊の危機に対して、もっとも賞賛に値するのは、このビル改修のために必要な費用の支出をすぐに認めた関係者は賞賛に値する…という関係者のコメントに、最初は「当たり前じゃないか」と思ったが、実はこれは意外と簡単ではない…ということは、福島第一原子力発電所での事故を見れば、よくわかる。
緊急時に、優先順位を付けるということは、かなり難しいのだ。
最後に「最悪の事故を食い止めるのも人間」という章があり、そこの見出しだけを見ても、非常に示唆に富むことが書かれていたので、引用する。
事故の原因は企画・設計の段階で生じる
つねにもう一つの案を用意しておく
長時間のうちに確率の低い事故も起きる
上司に警告メモを渡すだけでは不十分
コンピュータを使えば状況把握は完全か
最後の最後まであきらめないことが大切
情報を封印することなかれ
最後に、とても興味深い内容の本ではあったが、図が非常に少なく、また、海外の本にありがちな、“例え話”が、かえってわかりにくいのが残念だった。
まず、本書で取り上げられる事故については、Wikipediaなどで全貌を調べた上で、読み進めた方がいいかもしれない。