心音/乾 ルカ
- 心音
- 乾 ルカ
- 光文社 (2019/4/17)
先天性心疾患のため渡米して心臓移植手術をした少女城石明音に待ち受けていたのは、多額の募金に対する心無い声だった。
「1億5千万円さん」と呼ばれたり、「人の死を自分の幸福に変えて生きている」と言われてみたり…。
こういうことを言う人っているんだろうか? とも思ったが、実際にいるのだろう。
また、自分でも無意識に言ってしまいそうだなと思った言葉もあった。
「寄付してくれた人のためにも、幸せにならないとね」
何気ない言葉だが、これも考えてみれば、かなり酷である。
たしかに幸せになること自体、間違ってはいないし、寄付してくれた人のことを思うことも、間違ってはいない。
でも、手術を受けた本人にしてみたら、なぜこうした“十字架”を背負わないといけないのだろうか?という思いに駆られてしまう。
そう考えると、「1億5千万円さん」や「人の死を自分の幸福に変えて生きている」と言うのも、(かなり偏見ではあるが)実は間違っていないかも…とも思えてくる。
けれど、絶対におかしい。
この境界線というのが、きれいにできるのではなくて、グラデーションのようになっているのかもしれないと思った。
本書は、城石明音の半生と周囲との関わりを通じて、主人公の苦しみが描かれている。
読んでいると切なくなるが、命の価値や、人の善意というものを考えさせられた。