なぜ科学が豊かさにつながらないのか?/矢野 誠・中澤 正彦
すべてではないけど、科学・技術の進歩は、人間の豊かさにつながる。
そして、時代とともに科学・技術が進歩しているというのは、誰もが認めることだと思う。
であれば、時代を経れば、より豊かになるはずである。
なのに、特に、日本においては、バブル崩壊後、失われた○年などと言われて、長らく経済は停滞している。
その間だって、科学・技術は進歩し続けているのに、豊かさにつながっていないということになる。
日本は世界をリードする科学・技術を持ちながら、それらを生かすことのできない社会になっているのだ。
本書は、経済の専門家はもとより、ウィルスや霊長類の専門家、内閣府や文部科学省の役人など、さまざまな立場の人たちによって書かれていて、ユニークな視点で、今の日本の抱えた問題点を指摘している。
まず冒頭で、ビックリしたのは、いわゆる、少子高齢化が我が国の経済が長期停滞する原因ではない…と断言していることだ。
たしかに、例に挙げているように、西欧のGDPが1920年から1992年までに40倍になったが、人口は3倍になったに過ぎない。一人当たりのGDPの成長は、多くの部分が技術革新によるものとみなされているのが経済学における見方なのだという。
これは、かなりの”目からウロコ”であった。
こうなってくると、俄然、未来が変わって見えてくる。
では、そもそもの、我が国の停滞の原因は何か?
それは、IT革命に乗り遅れた…科学技術の活用に失敗したということのようだ。
日本は、IT革命の最先端にいたはずなのに、いつの間か、世界から取り残されてしまったという事実を、さまざまなデータを交えて紹介している。
で、科学技術の活用とは何か?
それは、ニーズ(必要性)が、シーズ(種=新製品)を引き出すのに、ニーズとシーズがうまく連携できていないということのようだ。
19世紀の経済学者ヴィルヘルム・ロッシャーが使用した「迂回原理」の例がわかりやすい。
原始の時代。船を見たことない人が、沖合に出てたくさんの魚を取る船のことを知ったとする。
自分の村に帰って、「まず山へ行って木を切って…」となったら、村人たちはどうするか? 海の魚を採るのになぜ山へ行くのか…となる。
一見、何の関係もないようであっても、長い目で見れば、繋がっているということは多々ある。
そこに必要なのが、ベンチャーキャピタルだ。
ニーズからシーズに向け、系統的に技術開発を行うには、製品から技術まで適切な分業関係が築けるように、その間をつなぐ市場を発展させなくてはなりません。その役割を担うのが、株式市場であり、ベンチャー市場です。(p.90)
日本には、技術を評価する専門知識と、投資に関する専門知識・経験とを兼ね備えた人材や組織が極めて少ないため、ベンチャーが育たないという以前に、ベンチャーキャピタリストが育たないのです。(p.165)
…と、平易な言葉で書かれてはいるが、内容は、けっこう高度だし、いろいろと考えさせられる。
論理的な思考が試されている感じがした。