「ごんぎつね」をめぐる謎/府川 源一郎
教育出版
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ごんぎつね(全文)…おそらく誰もが、小学生の頃、読んだ記憶がある作品ではないだろうか?
それもそのはず、ごんぎつねは、発行元の会社を越え、すべての小学4年生の国語の教科書に採用されているのだ。
そういう意味では、もはや国民的文学作品と言っても過言ではないだろう。
この新美南吉によって書かれた「ごんぎつね」 …実は、時代によっては、彼が書いた作品そのままではなく、あちこち異なる状態となって作品が世に出回り、教科書にもなっていたという。
多少仮名遣いや難読漢字を読みやすい言葉に置き換えるくらいはあるかと思ったが、それどころか、なかには結末すら異なってしまっている教科書もあるくらいだ。
例えば、ラストシーンで、兵十が撃った銃弾は、ごんの足に当たりごんは死なない…など。
いくらなんでも、それはまずいじゃない?…と思ってしまったが、教科書に載る作品の果たす役割(p.108)を考えると、必ずしも、そうとも言い切れないのだ。
最近は、「正しい作品を正しく教えてやろう」という志向が強くなってきているという(原典重視)。教科書教材の書き手の多くが現役ということもあって、作者自身の口から作品の主題や意図が語られることが少なくなく、その傾向は強くなっているという。
そうなると、授業は、単に意味を伝授する場となってしまう。本来、授業は、教材を媒介にして、子どもたちと協同で意味を考えていく場であるはずなのに。
さすがに、結末が変わるのはどうかと思うが、ただ、教科書教材というのは、必ずしも原典そのままでなければならない…というわけではない…という気はしてくる。
本書では、ごんぎつねが、学校でどのように教えられてきたか具体的な事例を挙げて紹介している。
今回、久しぶりに、ごんぎつねを読んだが、多少内容を忘れてたものの、一番最後のフレーズは、初めて読んだ当時から、強く印象に残っていたのをあらためて思い出した。
兵十は火縄銃をぱたりと、とり落としました。 青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。
たった1つの作品だけで、これほどまでに盛りだくさんの内容となるというのは、それだけ、ごんぎつねが名作であることの証拠のように思えた。