3248 人食いお母さん(後編)
お母さんが、実は人食いだった…という、衝撃的なアフリカ民話の続き。(前編はこちら)
なんと、やはりお母さんは、根っからの人食いだったようで、子供たちを逃したことを心から後悔するのだ。
けれども、考えると、どうにも惜しくて仕方がありません。「せっかくのごちそうを、あぁ、もったいないことをしてしまった。仕方がない。代わりに、お父さんを食べるとしよう。」
とんでもない展開だが、家に帰った人食いお母さんは、こともあろうか、お父さんを捕まえてこう言う。
「子供たちを食べ損なったから、お父さんを食べることにしたよ。」
しかし、お父さんは、実に冷静にこう言ってのける。
「それはいいがおまえ。私を食べたら、誰がおまえの主人になるんだい。こまんないかな。」
なんだかよくわからないロジックだが、お母さんは、それに納得。やっぱり子供たちを食べなくてはいけないと言って、再び追いかけていった。お父さんは助かったが、せっかく逃がした子供たちが再び餌食になってしまうことに、お父さんはどう考えたのかについての記述はなかった。
ものすごい勢いで子供たちを追いかけた人食いお母さん。
あともう一歩で、おじいさんの村に着くというところで追いつくと、ものも言わずに、二人を飲み込んでしまいました。
それから、村の中に入ると、村の獣や、鳥や人間を片っ端から捕まえて食べてしまいました。そして、最後に大きな斧をひとつ拾うと、それを担いで、うちの方に帰って行きました。
…なんということ! 村じゅうの生き物をすべて食べてしまったというではないか。
さらに話は続く。
おなかがいっぱいになった人食いは、早く帰って眠りたかったので、近道の深い谷を横切ろうとすると、空から大きな鳥が近づいてきました。
鳥が人食いお母さんに「おまえは悪い人間だ」 と指摘。それに対し、人食いお母さんは、
「私は、悪いことをした覚えなどない」
人食いは怒った声で、鳥を見据えますと、
「罪もない人間を食べて悪いことをしたと思わないのか。」
「あれは私の食べ物だ。おまえだって生きるために罪もない鳥や獣を食うではないか。何が違うと言うんだ。」
鳥に負けない強い声で、人食いは、空をにらんで言いました。
人食いのくせに、なかなか鋭いことを言う。それに対して鳥は…
すると鳥はさっといきなり降りていって、人食いの持っている斧を取り上げ、右の腕を切り落としました。
なんと、人食いの質問を無視し、問答無用の攻撃に出たのだ。
「痛い。こら、その腕を返せ。」
人食いは大きな声で叫びました。
「だめだ。返すわけにはいかぬ。」
空高く、鳥がその腕を加えて舞い上がると、人食いは下から、
「こら、返せ。私は帰って、主人のご飯の支度をしてやらなくてはならない。腕を返せ。」
と、追いかけました。
鳥は人食いに対して、容赦をしない。
「もう、そんな心配はしなくていい。」鳥はまた舞い降りると、今度は、人食いの足も切ってしまいました。
ばったり倒れて動けなくなった人食いは、急にしょんぼりしてしまい、
「鳥さん、鳥さん、助けておくれ。私に、手と足を返しておくれ。その代わりに、鳥さんにとってもいい歌を教えてあげよう。」
ついに、人食いは、鳥に対して命乞いに出る。しかし、鳥は、とどめを刺すのだ。
でも、鳥は、知らん顔でまた降りてくると、人食いのお腹を斧で切りました。
この鳥の非情さを見ると、人食いが気の毒に思えてくる。
そうすると、中から水牛や鶏やイボイノシシがみんな元気よく飛び出してきました。
そして、村の人たちに続いて、一番最後に、二人の子供がにこにこ笑って出てきました。
みんな大喜びで鳥にお礼を言いました。
「鳥さん、ありがとう、おかげで助かった」
村の人たちが手を振って、喜ぶと鳥は笑って
「私のせいじゃない。人食いのお母さんでも懐かしがった兄妹たちのおかげさ。」
そう言って、遠くに飛んで行ってしまいました。
二人の子供は、村の人たちから感謝され、大きくなって兄さんは、その村の酋長に、妹は隣村の酋長のお嫁さんになったということです。
アフリカ、カフェルン族のお話ということだが、なんとも言えない読後感…。このお話から、何を学べばいいのか、どう受け止めたらいいのか?…とにかく、ユニークな民話だった。
ただ、考えてみると、日本でも鬼子母神という例もあるわけで、なぜかお母さんが人を食べるというお話が、古今東西あるというのが、なんとも興味深い。