すごい本屋!/井原 万見子

■ビジネス・経済,龍的図書館

4022504056 すごい本屋!
井原 万見子

朝日新聞出版 2008-12-19
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本をインターネットで買うようになってから、あまり本屋の店頭で買わなくなったという人も多いのではないだろうか? 僕の場合、幸い図書館に恵まれているということもあって、本を買う機会はあまりないが、実際、これまでに何度かインターネットで本を買っている。

そういう状況では、やはり本屋の商売は大変なのは想像に難くない。先日も、よく利用していた本屋がつぶれてしまったばかりだし…。

この本で紹介されている本屋へは、和歌山駅から特急で約40分(天王寺からだと1時間20分)。路線バスに乗り換えて50分。さらに町のコミュニティバスに乗り換えて20分かかる。乗り継ぎがよければいいが、そうでなければ、半日はかかるのを覚悟しなければならないだろう。

大都会の本屋だって廃業してしまうのに、そんな山奥にある本屋があること自体“すごい!”が、さまざまな企画で、お客さんを集め、関係者を驚かせている。人口2200人の村で、わずか100人程度の集落にある本屋できちんと経営が成り立っているのだ。

本屋…ではあるが、味噌や塩、日用品やお菓子なども売っている雑貨屋としての側面もある。しかし最大の主力商品が児童書だ。試行錯誤しながら、本を読んでもらいたいという著者の熱意が伝わってくる。

そんな熱意と、決して多くないお客さんの理解や協力があってこのお店が成り立っていることがわかる。

つい、インターネットが当たり前の世界で過ごしていると、もう普通の本屋は成り立たないだろうな…と簡単に諦めてしまいそうになる。インターネットで何でもできてしまうし、本屋ができることは限られてしまうからだ。でも、著者はさまざまなことに挑戦した。

なるほど、本の読み聞かせは、さすがにインターネットでは不可能だ。
エスキース(下絵)展や、原画展、サイン会、おはなし会…そうした企画は、インターネットの世界では決してできない。お店があってこそできることだ。

ふと、こうした活動は、図書館とか自治体が取り組むべきなのではないか?とも思った。しかし、ちょっと考えてみると、それも難しい気がしてきた。公務員という立場では、これほど熱意を持って、本を読んでもらおうとする活動に専念できるだろうか? むしろ、限られた環境のなかで「自分にできることが何か?」を徹底的に考えてきたからこそ、不可能と思われたことが、次々と実現できたのではないか?という気がする。

原画展を開こうと奔走する著者に「絵本の原画?今まで見たことがないんだったら、模写でいいんじゃないの」と言われたこともあるそうだ。

こういうことを言ってしまう人は、決して悪気はないのだろうが、この人こそ本物というものを知らないのだろう。本物を見たときのインパクトは、イミテーションでは代用できない。

イベントがきっかけで、村の子供が書いた読書感想文が最優秀賞に選ばれたり、さまざまな人とつながり、次の新しい企画のきっかけになったり、どんどんと世界が広がっていく様子がよくわかる。

簡単に諦めちゃいけない。何か方法があるはずと、読んでいるうちに勇気が出てくる。