メディア・バイアス/松永 和紀
メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書) 松永 和紀 光文社 2007-04-17 |
「発掘!あるある大事典II」でのデータ捏造問題は記憶に新しいが、そこまであからさまではないものの、ほとんど同じような根拠のない情報が氾濫しているということに、どれだけの人が気付いているのだろうか?
「○○を食べれば痩せる」とか「○○はガンに効く」という話題はいくらでも見聞きする。もちろんそういうこともあるのかもしれないが、特に問題を複雑にしているのは「○○は危険…」という“警鐘報道”だろう。そもそも、危ないを伝えるのはとても簡単なことなのだ。わずかなリスクでもそれを声高に叫べばいい。逆に、「危なくない」を伝えるのは、様々な証拠を積み重ねていかなければならないし、もともと科学には不明な点が多い以上、リスクゼロを証明することはできない。危なくないを報道することはとても難しい。
かつて「環境ホルモン」問題がマスコミをにぎわしたことがある。その後の調査で実際には危惧された問題は確認されていない。結果的に不安だけを煽ったことになる。
伝統食を見直す「スローフード運動」もマスコミには好意的に取り上げられているが、本当にそうだろうか?と疑問を投げかけている。かつて日本の食は貧しく、それが平均寿命の短さにつながっていたことは間違いなく、素晴らしいとされる食事は、年に数回しかない特別な食事であった。「昔はよかった」と思っているのは、本当の昔というものをを知らない人なのかもしれない。
「アレルギー増加の原因は本当に“清潔化”にあるのか?」「“マイナスイオン”にみるニセ科学」「オーガニック食品が、実は安全であるかどうかわかっていない」「保存料ゼロを謳う一方で食品添加物に頼るコンビニ」など、さまざまな事例が挙げられている。
興味深い話ばかりなので、例を挙げていくと本書を丸写しになってしまいそうだ。
ニセ科学が簡単に広まってしまう危うさを見せつけられたのは、「水からの伝言」の例だ。これは、2本のガラス瓶の一方に「ありがとう」、もう一方に「ばかやろう」と書かれた紙を貼り付け、それを見せた水を凍らせると、ありがとうの言葉を見せた水はきれいな結晶ができ、ばかやろうには結晶がバラバラに砕け散ったという話で、当然全く科学的な根拠などない。しかしこれを道徳の授業や、国会などでも好意的に取り上げられるケースがあったと聞くと、事態はとても深刻に感じずにはいられない。
「科学報道を見破る十ヵ条」として紹介されていた内容は、科学報道にどう接していったらよいかを示す、非常に示唆に富んでいるので、そのまま引用させていただく。ちなみに、本書の見出しでは“科学報道を見破る~”となっているが、実際には、「科学報道の“真偽”を見破る~」とした方が適切なような気がする。
- 懐疑主義を貫き、多様な情報収集をして自分自身で判断する
- 「○○を食べれば…」というような単純な情報は排除する
- 「危険「効く」など極端な情報は、まず警戒する
- その情報が誰を利するか、考える
- 体験談、感情的な訴えには冷静に対処する
- 発表された「場」に注目する。学術論文ならば、信頼性は比較的高い
- 問題にされている「量」に注目する
- 問題にされている事象が発生する条件、とくに人にあてはまるのかを考える
- 他のものと比較する目を持つ
- 新しい情報に応じて柔軟に考えを変えてゆく
皆さんも、どうぞお気をつけて。