582 金魚

定点観察

近所に古井戸を模したオブジェがある。あくまでオブジェなので、なかはからっぽで、中には水がたまっていた。ある日、その古井戸のオブジェの中に、ビニール袋が入っていて、さらにその中には、金魚を10匹くらいが入っていた。そこをちょうどマンションの管理人のおじさんが通りがかり、彼が用意した金魚であることを話してくれた。動く生き物が身近にいるというのは、不思議と心が和むもので、近くを通るたびに、何気なくのぞき込んだものだ。日ざしが強い日は、陰でひっそりと過ごし、夕方とか雨の日などは、限られた中ではあるが、元気よく泳ぎ回っていた。ある日、いつものように中をのぞき込んでみると、どうも数が少ないような気がした。けれど、それはまた、陰でひっそりと隠れているのだと思っていた。でも翌日もその翌日も、金魚の姿はあまり見えなかった。ある日、きちんとのぞき込んでみた。わずかに2匹だった・・・幼いときの辛い思い出と重なった・・・明け方聞こえた、野良猫の鳴き声とともに。

Posted by ろん