7574 展覧会「平田晃久―人間の波打ちぎわ」
練馬区立美術館で開催中の「平田晃久―人間の波打ちぎわ」を鑑賞。
この練馬区立美術館は、老朽化のため2025年度に休館し、平田晃久による設計のもと、2028年度に開館する予定となっている。
建て替えを控え、全館を使用した大規模企画展は本展で最後とのこと。
建築家平田晃久については、この美術館の設計で初めて名前を意識したのだけど、以前訪れた、東急プラザ原宿「ハラカド」の外装と屋上のデザインを手掛けているのも彼の設計事務所だった。
あの屋上の広々とした独特な空間を思い起こしつつ鑑賞する。
本展は、「からまりしろ」「響き」「響きの響き」の3章で構成されている。
1章の《からまりしろ》という言葉は、 絡まる+しろ(=余白)という意味の造語だそうだ。
一本の樹の上に、さまざまな生物が絡まり、生態系を形づくっているように、建築も自然環境のような人々が自由に絡まるもの…を目指しているようだ。
かっちりとした境界を設けることなく「ふわふわとした隙間の錯綜」を意図的に設けているのが特徴と言えるかなと思う。
「ハラカド」の屋上の広々とした独特な空間を思い起こせば、なるほど、こういった意図はあるのかな…なんて気もしてくる。
そして、限られた空間の中に表面積を最大化するとき、自然界では立体的な”ひだ”が生まれる。
こうした”ひだ”が、まさに《からまりしろ》なのだ。
第1章の展示室入口のところにあったキャベツの写真が、印象的だったが、《pleated sky》は、メキシコシティの現代美術館のコンペティションは、ひだの原理を応用したというが、もうキャベツそのままだ。
台湾北部の自然に囲まれた丘に建つ住宅《architecture farm》は、”ひだ”によって、パブリックとプライベート分けることとで、それぞれの領域が互いに繋がっているのに見通せないという、連続的な空間を作り出すことができたという。
第2章のテーマは「響き」だ。植物は人間とは異なる方法でコミュニケーションを行ってるらしい。
人間からすると香りとか音の響きの知覚に近いこうしたありようを〈響き〉と呼び、 人間活動の集積によって、そうした〈響き〉を発生させているという。
東京の夜景のように、それぞれの建物は人間的の意図でできているのに、それらが集積し響き合うと、集合的無意識のようなものが形成される。
コンピュータによるこうした〈響き)を可視化は、いわば意識の波打ちぎわであるという。
圧巻だったのは、来年から建設が始まる、練馬区立美術館の膨大なケーススタディの模型の数々だ。
もはや何が違うのかさっぱりわからないくらい似たような建物模型の、それぞれにメリットデメリットなどが記載されて、検討に検討を重ねている。
”意識の波打ちぎわ”を可視化する作業なのだろう。
他にもさまざまなプロジェクトにおいても、とてつもない分量の検討に圧倒される。
建物が建つ場所の地形、その建物の目的、そこに集まる人々、その土地の成り立ちや文化など、ありとあらゆる要素をこれでもかと盛り込んで、コンセプトを絞り込んでいく。
ここまでやるかと思ってしまうほどだ。
3章「響きの響き」が展示されていた1階は、他の章と違っていて、ちょっと幻想的。
”ハラカド”をはじめ、これまで手掛けてきた作品や、練馬区立美術館や、来年開催の大阪万博催事場のような、現在手掛けている作品などの模型が展示されている。
写真撮影不可の対象だったが、原宿駅旧駅舎跡地に建設中の商業施設などの手掛けているようで、建築家平田晃久は、建築の世界において日本を代表するような存在になるだろうな…と思わせる。