この世にたやすい仕事はない/津村 記久子
「コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」
”〇モホルンリンクル”のCMでおなじみのあの光景…2ちゃんねるのネタではないけど、あの手の仕事は、実際には大変なのだけど、どこかあこがれてしまう。
かなり慌ただしい仕事をしているせいか、ときどき、僕も…と思ってしまう。
燃え尽き症候群のようになって14年間続けてきた仕事を辞めた、実家住まいの三十代独身女性が、前述のような条件で、職業安定所で紹介された仕事を経験していく。
それぞれが独立しているのかな…と思ったら、5つの話は、微妙につながっている。
隠しカメラで監視する仕事、バスの広告放送を考える仕事、おかきの袋裏の豆知識を考える仕事、街中にポスターを貼って回る仕事、公園の森にある管理小屋での仕事…
どの仕事も、実際にありそうなのだけど、実際に仕事に就いてみると、どこか異次元というか、あり得ない感じという、ちょっとした非日常的空間に感じられたのは、この著者のなせる技だろうか。
どの話も、穏やかな展開のなかで、どこかシュールだったり、すっとぼけた感じが、読んでいて飽きさせず、楽しかったが、特に、特に4話の「街中にポスターを貼って回る仕事」は、ちょっとしたミステリーのようだった。
そして、最後に、キッチリとオチがくる当たりは、「そうきたか〜」と思った。
どこか冷めた感じのする主人公だが、5つの仕事を経験するうちに、仕事ばかりでなく、人の生き方なんかについても、主人公と一緒に考えさせられた気がする。
読後感は、まさにタイトル通り「この世にたやすい仕事はないなぁ…」といった感じだった。