加害者家族(幻冬舎新書)/鈴木 伸元
- 加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)
- 鈴木 伸元
- 幻冬舎 2010-11-27
犯罪が発生した瞬間、加害者と被害者という関係が発生し、さらに被害者家族と加害者家族が生まれる。
大きな事件や悲惨な事件が起きると、すぐに、関係者のプライバシーを暴くような、マスコミに過熱報道に違和感を覚えることが少なくない。
それは、被害者だけにとどまらず被害者の家族や、加害者、そして加害者の家族に対しても。
記者会見では、まるでそれが正義なのだと言わんばかりの記者の態度や、わざわざ「ドラマ性」を持たせようとしているとしか思えないことなどもある。
前振りが逸れてしまったが、この本はタイトル通り、犯罪の加害者家族にスポットを当て、有名な事件などの例も含め、加害者家族の実態を紹介している。
読みながら思ったのは、本書でも取り上げられていたが、事件とネットとの関係だ。
僕も覚えている事件だが、古書店で万引きを目撃された15歳の男子生徒が逃走中、電車にはねられ死亡するという事件のケース。
古書店に「人殺し」という抗議があり、店を閉めようとしたところ、今度は逆に「店を閉める必要はない」という意見が殺到したという。
伝えられる内容に対して、どういった意見を持とうが自由だと思うが、なぜそれを、わざわざ当事者に伝えるのだろう…といつも不思議に思う。
殺人事件の容疑者が逃走したケースでは、容疑者の両親が医者だったというイメージから、息子に逃走資金を渡しているという出所不明の情報がネットで拡散し、家族の住所や電話番号がネット上にさらされ、勤務先の病院も辞めざるをえなくなったという。
加害者家族を執拗に追いつめる目的は何だろう?
加害者家族は犯罪を犯した関係者なのだから、犯罪を未然に防ぐことができなかった責任があり、何らかの仕打ちを受けるべき…という考えが根底にあるのだろうか?
仮にそうだとしても、事件とは直接関係のない、見ず知らずの一個人が、ネットを通じて攻撃する理由にはならないような気がするのだけれど…。
そもそも「加害者だから」というわけでもないようで、事件の被害者ですら攻撃の対象となることがあるという。
例として取り上げられていたのは、賠償金の額が報じられると「子どもの命を金で売るのか?」という非難が集中するというのだ。
こういった、ネット上での騒ぎを見ると、人間のイヤな部分を見せつけられているような気がして、悲しい気分になる。結局は誰も幸せにならないのに。
言った本人は、スッキリするのかなぁ…。
アメリカでは、加害者家族に対して激励の手紙が多数届くというし、諸外国では加害者家族を支援する組織もあり、日本でもその動きがあるらしいが、どんな対策を取ったとしても、ネット上の個々に対する影響は、かなり限定的なものになってしまうだろう。うーん…。
本書の“加害者家族”という切り口は、あまり取り上げられにくいジャンルで興味深かったが、取材によって書かれたのは冒頭の1章だけというのは、ちょっと物足りない気がした。