教室内(スクール)カースト/鈴木 翔
光文社 (2012-12-14)
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「スクールカースト」という言葉を聞いて、特に解説されなくても、すぐに、なんとなくその意味はわかるような気がした。
同じ教室で学ぶ同級生の間に、階層とか地位が歴然と存在している…というのが、いわゆる“スクールカースト”だ。
そうだ…振り返れば、確かにそういったものはあったように思う。
カースト上位層の特徴としては…賑やかで、声が大きいとか、気が強く仕切り屋といった、ごくごくもっともなものだ。
そして、わかるなぁ…と思った特徴は、「遠足などで、バスの後ろの席を占領する」というのがあった。
カースト下位層はもう言わずもがな、おとなしくて地味な子である。
生まれも育ちも性格も嗜好も異なる子供達が、最低でも1年間同じ教室で過ごすのだから、いろいろなことが起きるのは当然だろう。
本書では、3つの調査からスクールカーストの実態を明らかにしようとしている。
中学生を対象にしたアンケート調査(有効回答数:2874名)
‐ 神奈川県の中学生の生活・意識・行動に関するアンケート
大学1年生を対象にしたインタビュー調査(調査対象:10名)
‐ これまでの学校生活の人間関係に関する回顧的調査
現役の教員を対象にしたインタビュー調査(教員4名)
‐ 勤務校の児童生徒の人間関係に関する調査
まず気になったのは、中学生を対象としたアンケートを除く、他のインタビュー対象者の少なさだ。いずれも、筆者の知人であったり、その紹介であったり…と、偏りが出ることは否めない。
もちろん筆者もこの点は認識しており、冒頭でもその旨を述べているし、かなりデリケートな問題であることから、調査は難航したようだ。
スクールカーストの存在は、教室内で過ごす児童・生徒にもじゅうぶん認識されており、無用な対立を避けるために、結果手金、階層や地位によって生活は縛られる生活を送っている。
一方教員にも、スクールカーストの存在は認識しており、それどころか、それを積極的に利用して学級経営をすることこそが大事と考えているようだ。
さらに、こうした教員の態度は、児童・生徒には“筒抜け”であり、インタビューの中でも、先生は、カーストの上位層の子には仲良く話しかけるし、下位層は無視しているといった回答が見られる。
誰もが面倒な対立を避けようとする結果が、スクールカーストを作り上げる。それに教師も荷担するから、スクールカーストはより強固なものとなるのだろう。
一番気になったのは、インタビューに登場した教師達の発言だった。
「(下位層の生徒は)100%将来使えない・企業はそういう人間を求めない」
「立場が強いやつを使って、いい方向にもっていくようなときもある。」
「こういう立場の上下関係が存在するっていうことは、僕は賛成です。いい経験です。」
スクールカースト上位層にいるのは、その子の個性であり能力だ…と考えているようだ。
たしかに間違いではないし、それを利用することで、学級経営がスムーズに行くのなら、利用しない手はない…のかもしれない。
でも、それでいいのか?と気になった。
教室はどうしても閉鎖的な空間になりがちで、性格によっては自ら声を上げるのが難しい児童や生徒もたくさんいる。
そうした子達に対して、いかにケアできるかが教師に求められていると思う。
なのに、企業にほとんど勤めたことのない先生が、(下位層の生徒に対して)100%将来使えないとか、企業はそういう人間を求めないと言い切るなんて、個人的には、この先生の人間性すら疑いたくなった。
全体を読んでみて、調査に偏りはあると感じたものの、話の展開には強引さはなく、とてもよい問題提起になっていると思う。本書が、こういった研究のきっかけとなればいいと思った。