磯崎新の「都庁」/平松 剛
磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ
平松 剛
文藝春秋
新宿にある現在の東京都庁舎が話題になるときは、あまり“いい話”でないことが多い気がする。

1991年丸の内旧庁舎から新宿に移転した当初は、独特な形状と当時日本一の高さを誇ったこともあって、“バブルの塔”と揶揄され、現在では、その構造ゆえに、莫大な維持コストが問題視されている。
この設計は、日本を代表する建築家丹下健三によるものだ。
なのに、この本は、“磯崎新の「都庁」”というタイトルだったので、?と思いながら、読み始めた。
彼は、都庁の公開コンペに参加していたのだ。
紆余曲折ののち、超高層ビルを建てることが必然だった計画に、あえて、彼は高さ100m低層ビルを提案、結果、丹下健三に敗れることになる。
本書は、都庁の公開コンペ、そして、磯崎新の半生を通じて、彼と建築との関わり、そして、彼の師匠である、丹下健三を中心とした日本の建築の歴史を、わかりやすく紹介している。
コンペで繰り広げられる駆け引き、コンペに対する思いやこだわりなど、ふだんは決して知ることのできない世界を垣間見ることができる。
こういったコンペでは、勝ち抜いた建物が注目を集め、落選したプランは日の目を見ないことが多いが、磯崎のプランを見たとき、ハッとした。
先述の、磯崎のプランを見た瞬間思い出した建物があった。
それは、フジテレビの本社ビルだ。設計は丹下健三だ。

コンペの行われた10年後に1996年に竣工している。
あまりにそっくりで、これにどうして触れないのだろうと思ったら、本書の最後にわずかに取り上げていたが、詳細についての記述は一切なかった。
こういうことってあるんだなぁ…と。いろいろ考えさせられた。