9・11生死を分けた102分/ジム・ドワイヤー ケヴィン・フリン 三川 基好

■社会・政治・事件,龍的図書館

4163674306 9・11生死を分けた102分 崩壊する超高層ビル内部からの驚くべき証言
ジム・ドワイヤー ケヴィン・フリン 三川 基好

文藝春秋 2005-09-13
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いつもの図書館で、なにげなく手に取ったのは偶然だった。あの事件から、明日で5年になる。


事件直後様子を伝えるAERA

この事件のあった日のことは、今でもよく覚えている。
たまたま見ていた携帯電話のニュース速報が最初だった。確かセスナ機のような小型飛行機が衝突したみたいなニュースだったと思う。そういうこともあって、当初は大きなニュースだとは思わず、テレビも見ずにすぐに寝てしまい、翌朝テレビをつけてみると、大変な事態が進行していたことに驚いたのを思い出す。
当時は、いったい何が起こったのか、さっぱりわからなかったものの、これからの世界はいったいどうなるのかと、漠然とした不安を覚えたものだ。当時買った事件直後の様子を伝えるAERAは、いまでも捨てられずに持っている。

その後、アメリカによるアフガニスタン侵攻やイラク戦争に続いた動きは、誰もが知るところだが、そのすべてのきっかけとなった、ワールドトレードセンタービル(WTC)の現場でいったい何が起きていたのかということについては、これまでなかなか伝わることはなかった。

この本では多数のインタビューと精細な調査によって、このときの模様を克明に描き出している。被害にあったのは、皆、ごくごく普通の一般市民たちなのだ。

崩壊寸前のビルから妻にあてた電話で、妻を驚かせようと予約してあった旅行をキャンセルして欲しいと言う夫…(p.286)

初めての本格的なデートに彼女を連れ行った場所が、建設中のWTCの地上40階だったという消防士。彼は消防局に勤めながら、建設現場のアルバイトをしていたのだった。その半年後二人は結婚し幸せな生活を送る。それから30年後、もうすぐ消滅しそうなこのWTCビルからたくさんの負傷者を運び出す…(p.293)

子供がいるのだと。死にたくないと。彼は何度も何度も訴えた。死にたくないと。死にたくない。突然、その声が大きな音にかき消された。悲鳴が上がり、そしておそろしい沈黙が続いた(p.306)

現場は混乱を極めた。数百メートルといえば地上ではなんてことはない距離だ。それが地上400m上空ということになるだけで、ここまで大変なことになるとは、こうした事件が起きない限り、わからないものなのだろうか?

ビル全体の崩壊の危機が迫っているという情報すら、無線で伝えることができず、結局は直接伝えにいかねばならない有様だった。

著者はこの事件を、21世紀のタイタニックと言っていたが、まさにそれに当たるような箇所が随所に見られる。建物に対する絶対の自信を持っていた設計主任の言葉…

「乗員乗客を満載したボーイング707がぶつかっても倒れないように作られているんだ」「旅客機がぶつかるのは網を鉛筆で突き破るようなものでね、穴は開くけど全体には影響ない」(p.223)

彼はこうした考えを持ちながらも、多くの人々を救うことになるが、やはり過剰な過信があったと言わざるを得ない。ただ、こうした考え方を責めるのは酷というものだろう。まさか、今回のような、燃料を満載した旅客機が破壊を目的に突っ込んでくるなんてどうして想像できようか。

読んでみて、よくわかったのは、今回被害を大きくしたのは、非常階段やエレベータの構造的な欠陥、緊急時における対応方法の準備不足、消防と警察との対立、設計者や建築者の建物に対する過信といったことだった。これらは事件とは直接関係なく、万が一の非常事態、緊急事態が発生してしまった場合の対処方法は、やはりあらかじめ考えておく必要はあるのだ。あり得ないことに対しての対策を考えておくことは、決して無駄なことではないように思う。

その内容は、テロ対策というよりも、危機管理のあり方そのものについてさまざまな問題点を投げかけている。

一般人はもちろん、特にビルの設計者、都市計画に携われる人、警察・消防関係者などにも是非見てもらいたい。このときに起きた事実を正確に知ることは、とても大事なことのように思う。

どんな大きな事件でもそうだと思うが、事件に遭遇した人たちとその関係者は、この日を境に人生が大きく変わってしまったということだけは事実だ。