1566 仕事

定点観察

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 雪が降りしきる夜、山中でスキーバスに友人と共に取り残された、漫画家いしかわじゅんが、バス会社から謝罪されるどころか、名誉毀損で訴えられてしまうという、ノンフィクションの単行本を読んだ。裁判なんて全く縁のなかった人が裁判に巻き込まれていくさまは、下手な小説なんかより、断然面白い。面白がっちゃいけないのだろうが、あまりに理不尽なことが多すぎて、笑うしかないのだ。おそらく当の本人もそんな気分にもなったかもしれない。詳しくは本文を読んでもらうとして…
 裁判を受けて立った著者が一番怒っていることは、乗客を置いていったバス会社(訴えたのは主催した旅行会社)は、バス会社としての最低限の責任を果たすべきだし、着手金をぽっくった弁護士は、弁護士としてせめて最低限の責任を果たすべきだということなのだ。これと同じことが解説にも書かれているのだが、わかりやすい例が挙げられているので、ちょっと長いが引用する。

 あなたは、ある喫茶店にはいる。そして、あなたはウェイターにコーヒーを注文する。しかし、何分待っても、何十分待っても、コーヒーは来ない。あなたは痺れを切らして、ウェイターに訊ねる。「あの、ぼくが注文したコーヒーは?」「えっ、コーヒーなんか注文されましたっけ。それじゃ、コーヒー、一つですね」
 そういうと、ウェイターは何もなかったかの如く、無表情で立ち去っていく。
 あなたは怒るだろう。だが、その怒りはどこから来るのだろう。それは自分が無視されたから(ではあるけれど)というより、そのウェイターが自分の仕事になんの愛着ももっていないからだ。自分の失敗に対して無表情だからだ。仕事なんてどうでもいいと思っているからだ。

 例で挙げられたウェイターにしてみたら、それは毎日のことだし気にもとめないのだろう。それが怖い。一番の当事者にはわからないのだ。ただ確認する手段はあると思う。このウェイターに対しては「仕事に愛着や誇りを持っているか」と聞けばいい。

 単に、毎日の仕事をこなしているうちに、もしかすると自分も、ウェイターのようなことになってはいないかと気になった。もしウェイターと同じ質問を自分にされたら……

Posted by ろん