自分で決められない人たち/矢幡 洋

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4121501497 自分で決められない人たち
矢幡 洋

中央公論新社 2004-09
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 依存性こそ日本人、日本社会の心理を解明する鍵であると考えている著者が、あらゆる実験や事例を元に、物事を「自分で決められない人たち」の実態を解き明かしていく。
 初顔合わせ同士が顔を合わせると、「自らをおとしめるような」卑屈な自己紹介が何人も続くというシーンをよく見かける。いかに自分が何もできないかとか、無能さをアピールする場になっていることが間々ある。考えてみれば、自分だって似たような感じの自己紹介をしてしまっている。まるで”卑屈競争”-これこそが、依存性を示す一例らしい。
 いまの日本では、自立性よりも協調性が求められることが多いし、依存性の強い親が、依存性の強い子供を育てるという「再生産」が行われていることを示す事例はたくさんある。例えば、依存性性格者の親が「子供に嫌われたくない」と思うあまり、子供に媚びるという現象などだ。

 依存性自体悪いものではないが、いまの日本で起きていることは、依存性の良い部分が消えつつあるという。「場の雰囲気や相手の意向を鋭く察知して、和気あいあいのムードを保とうと努力する」というのが依存性性格者の典型的な特徴であり、それが日本の社会の心理であったのに、最近では、そもそも調整しなければならないような相手(それが家族であっても)とは、最初から距離を置いて関わらなくなりつつある。それは、依存性性格者のプラスの面として考えられる、「自分が劣っていることを認め、すぐれた物の存在を認め、それを学んでいこうとする姿勢」が失われていることを示しているのだ。そもそも視界に入らないのだから。

 これからの日本の姿を、以下のように予測している。いずれも深刻な内容ばかりだ。

「企業は中間管理職が育たなくなる」、「引きこもりは減らない」、「しつけ大学ができる」、「英語教育を増やしても国際化は達成されない」、「新しいクリエイターの登場は困難」、「強権政治が生まれる危険性」、「自己愛性格者が増える可能性」

 自分の周囲にも思い当たる節はあるし、自分自身に当てはまることもあり、かなり考えさせられる。いまの日本、これからの日本を考えていこうとする人たちにも、ぜひ読んでもらいたい示唆に富む本だった。

(2005/5/1) 【★★★★★】 -05/5/1更新