破裂/久坂部 羊

■文学・評論,龍的図書館

4344006984 破裂
久坂部 羊

幻冬舎 2004-11

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現役の医師が医療の抱える問題点を中心に描いている小説ということもあって、リアリティがあり話に引き込まれる。

いまの自分もそうだけれど、とかく自分がまだ(比較的)若くて、病院にもあまりお世話になることもなく、また身近に高齢者がいないということあって、あまり現実的に考えることができないから、こうした本であらためて現実を突きつけられると、否応なしに考えさせられる。
 医療過誤、超高齢化社会、介護問題、官僚主導政治などなど、あらゆる重要な問題を取り上げている。

 …超高齢化社会を迎えた日本は、本当に高齢者を支えていくことができるのだろうか?
 …医療技術が進んで、寿命も延びてきたけれど、本当にそれだけが幸せなことなのだろうか?
 
 この問いに対して、本書の中で衝撃的な回答が出てくる。その回答に対して、全面的に賛成する気はないけれど、それを上回る答えを思い出せないのは、ちょっと悔しい。
  医師の立場について描かれた記述の中で、印象に残った部分を引用すると…

…医療にはあらゆる不確定要素がつきまとう。命を失う罪は重い。しかし、命を救ったとき、同じだけの評価があるのか。命の賠償金が5千万円なら、救命の報償も同じにしてほしい。かけがえのない命を救ったのだから…

…患者は医師に不眠不休の働きを求め、理想ばかり押しつける。医師は命を救うものと決めつけ、それを当たり前のように言う。気楽な理想主義者どもに、現場の苦労がどれだけわかるか…

 たくさんの医師がもしかするとこのような葛藤をしているのかもしれない。
 改善の糸口は全く見えてない。それどころか悪化の一途をたどっている。よく考えていくと、かなり深刻なのに、自分も含めてあまり考えようとしない気がする。考えても解決しないのだから、何にもしないわけだ。
 題材や切り口がこれまでにない感じで、とても興味深く読んだのだけれど、どこか「白い巨塔」そっくりな部分が出てきたり、エンディングがかなり強引な感じがしたり、前作の「廃用身」と比べると、ちょっと物足りなさを感じてしまった。
(2005/5/1) 【★★★☆☆】 -05/5/1更新