先を見過ぎた鉄道車両たち/富田 松雄

■鉄道,龍的図書館

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先を見過ぎた鉄道車両たち
富田 松雄
イカロス出版 (2021/2/26)

これまで似たような本も読んだことがあったが、こうした“日の目を見なかった”鉄道車両の背景を知ると、さまざまなことがわかる。

開発当時の日本の状況、そして当時は想定していた未来、そして想像すらつかなかったその後の急激な時代の変化などを知ることができる。

いまとなっては明らかに”時代ハズレ”になってしまって、計画が頓挫するのも致し方ないと思えるものから、現在を見通していたと思えるような例もある。

興味深かったのは、国鉄による、弁当自動販売機の独自開発だ。

かつて長距離列車には供食設備は必須と考えていた国鉄が迫られたのは、人件費の削減だった。

その結果、弁当を自動で販売する機械の開発が行われた。

開発は順調に進み、ついには実現直前まで至ったものの、”食品衛生法”の改正によって規制が厳しくなってしまい、弁当の自動販売機は実現見送りとなったそうだ。

その後、列車速度向上で車内の滞在時間が短くなり、長距離列車は飛行機や長距離バスに取って代わられることで、コストのかかる食堂車の必要性が減少した。

さらに至るところにコンビニができたことで、車内の限られた選択肢から選ばなければならない食堂車や売店は敬遠されることになり、ついには、食堂車は事実上日本から消滅し、自動販売機もほとんどが廃止されえている。

移動手段が鉄道だけではなくなり、コンビニがあふれる時代になることなど、かつて誰が想像できただろうか。

鉄道技術だけでなく、世の中全体の変化についていかないといけないのだ。

すべて試行錯誤の上に成り立っているのが、現在の鉄道の姿なのだ。

Posted by ろん