誰がアパレルを殺すのか/杉原 淳一 染原 睦美
ニュースなどで、アパレル業界の不振をよく聞く。
売れているのは、ユニクロなどに代表される、いわゆる”ファストファッション”ばかりで、かつての”ブランド”は、非常に苦しい状況のようだ。
特に業界関係者でもなく、ファッションに関心が高いわけでもないのだけど、そういった状況については見聞きしていたから、ちょっと気になってはいた。
本書は、自分のような部外者でも理解できるよう、アパレル業界の歴史や、問題などをわかりやすく解説している。
現在のような状況になってしまった、理由はいろいろある。
かつて、1970年代のアパレル産業は、洋服は作れば作るだけ売れた時代だった。
それが、この20年で3分の2、15.3兆円から10.5兆円へ縮小し、単価も下がっていった。
その一方、SPA(製造小売業)が台頭してくる。
アパレル産業の川上から川下までの情報を正確に把握し、サプライチェーン全体を合理的に管理している。
消費者のニーズを捉えて、中国などで大量生産するビジネスモデルだ。
大手アパレルは、かつての成功体験が足かせとなって、自らを変えることができなかった。
SPAの表面的な部分だけを取り込む形で、製造拠点を中国に移し製造コストを抑えただけだった。
売れない商品があふれ返ったが、ちょうど続々と作られたショッピングセンターやアウトレットモールなどが受け皿となったのだ。
そして、不良在庫を引き受けるバッタ屋が出現する。
その間、大量の商品を作るために、大手アパレルが委託したOEMメーカー
に対して、「売れ筋を、安く、早く」を要求し続け、いつしか商品企画やコンセプトまでも外部へ丸投げするに至る。
「アパレル企業の実態は、商社やOEMメーカーが提案する完成品を運ぶだけの疑似セレクトショップ」p.39
「売れ筋を作る」から「売れ筋を追いかける」ことに…。
ゾゾタウンに代表される通販の興隆、オンリーワンを目指す新興アパレルメーカーなどの紹介。
無駄が多かったぶん、成長の余地が残されていると考えている関係者も多いのだろう。
業界の当事者ではなく、外部の目で見ると気づくことも多いはずだ。
業界の専門家や、百貨店社長、ユニクロの柳井氏へのインタビューを見ると、この業界の危機感が伝わってくるとともに、次への方策も見えてくる。
一方、本文中では、やたらと大手アパレル幹部の匿名でのコメントがあったのに、こうしたインタビューやコメントでは実名がほとんど挙がってないことが気になった。
これは、大手アパレルの先行きが、まだまだ不透明であることの証なんだろうと思った。
とても読み応えがあった。