最後のパレード/中村 克
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最後のパレード ディズニーランドで本当にあった心温まる話 中村 克 サンクチュアリ出版 2009-03-10 |
東京ディズニーランドで起きたさまざまな“泣ける”エピソードを集めたというこの本は、1、2ヶ月くらい前、新聞の書評欄で見つけた。このときすでにベストセラーとなっていたようで、さっそく図書館に予約を入れた。
その後、本書の盗作疑惑が問題となり、出版社は店頭在庫をすべて回収するとして、事実上絶版となってしまう。図書館の予約はどうなるのか気になったが、先週、なんとか順番が回ってきて読むことができた。こうした騒動のせいか、いまでは予約が120件以上に達している。
東京ディズニーランドは、他の遊園地やテーマパークと比べ、サービスや配慮など抜きんでていることは間違いなく、日本を代表するテーマパークと言っていいだろう。“魔法の王国”とも“夢の国”ともいわれるが、それらは緻密に計算され、イメージ作られた結果というと、ちょっと言い過ぎかもしれないが、実際ビジネスの面からも注目されている。
実際、訪れるたびに実感するのは、作り込まれたアトラクションやイベントは、大人でも十分楽しめるし、飽きさせないということだ。来演客の方も、それなりの入園料が支払える客層ということもあってか、ある程度、場をわきまえてるようにも感じられる。
そんな夢の国でもっとも大切なのは、従業員(スタッフ)の存在だろう。キャストと呼ばれているスタッフの教育は、完全にマニュアル化されているとも言われているが、マニュアルだけでは、血の通ったサービスを提供することはできない。
単純に泣けるという話ではなく、マニュアルを越えたサービスとはなにか?を考えさせられる、33編のエピソードが載っている。死とか病気とか身体にハンディキャップがある人の話がやたらと多いし、以前の評判のように“泣ける”かどうかは微妙だが、たしかに、いい話は多かった。
当然、盗作については意識しないわけにはいかない。
収録されている話が、別の本に収録されている話に酷似しているというのだ。
当初、発行元は「数多くの書き込みがインターネット上にあり、すでに誰もが知っている話だという著者の判断があり、掲載させていただいた。『盗用』ではない」と言っていたが、実は、この話は、" target="_blank">そもそもディズニーランドでのエピソードでもなかったらしい。
しかし著者は、こんなことを言っている。
最後のパレード」の著者や出版社をバッシングしている人たちに告げたいと思います。
「小異を捨てて大同に就く」という言葉もあります。小さな法律解釈行為はやめて、ディズニー精神や憲法前文の精神に則した大きな心でこの騒動をジャッジしてほしい、そう願ってやみません。
この件に関して、徹底的に調査しているサイトによれば、一部ではなどうやら大部分がインターネット(2ちゃんねる)からの盗作らしい。ほとんどが他人の書いたエピソードなのに、あたかも自分が体験したかのような書き方をしているにもかかわらず、それを“小さな法律解釈”と言ってしまうあたりは、ある意味大したものだ。
インターネットを最大限に利用した著者が、逆にインターネットに反撃されたということか。
本書の中にこんな記述がある。
ディズニーランドには絶対にしてはいけない、たったひとつの掟があります。それはゲストの夢を壊すということです。悲しんでいる顔を笑顔に変えるにはどうすればいいか。キャストはいつもそう考えながら、ゲストと接しているのです。(p.24)
おそらく著者は、そもそも盗作ではないし、仮に他人の書いた話でも夢を壊すことはないと言い張るだろう。たしかに本書の最後の方に、“関連サイトの情報を参考にさせていただきました”との記述がある。もっとも、ほとんどが盗用だのだから“参考”どころではない。
読み終わったあと、モヤモヤした気持ちだけが残った。