超合法建築図鑑/吉村 靖孝

■建築・都市,龍的図書館

439524002X 超合法建築図鑑 (建築文化シナジー)
吉村 靖孝

彰国社 2006-05
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たまたま寄った東京都豊島区立中央図書館で見かけた本だったが、とても興味深い内容だったので、近くの図書館で取り寄せることにした。

わざわざ取り寄せただけのことはあった。見開き2ページで、左ページに事例となる写真を、右ページにイラストとその建築物が誕生した元になった法律とその解説が丁寧に書かれている。

  • 品川駅前のビル群がみんな同じ程度の高さ(140m)なのは、航空法による斜線制限によって決められてしまっている…
  • 高速道路に面した大きな壁があっても運転中の視界を確保するため、高さ15m以下には屋外広告を設けてはいけない…
  • 道路に向かってビルが斜めに切り取られたような形をしている根拠…
  • 俗にアサガオと呼ばれる、工事中の仮囲いは、厚さ1.5cmの木材と同等以上の性能を持つ材質で、連続的に骨組みの外側から2m以上飛び出し、水平面とのなす角度が20度以上にならなければならない。

彫刻系、ファザード系、浮遊系、リボン系、突出系、冠系、カムフラージュ系、ペイント系、集合系といった形に分類され、まさに“図鑑”になっている。この本を一通り読むと、街を見る目が一変することに気付く。

建物を紹介する事例の見出しもかなりユーモラス。

  • タイタニックならぬ“タバタニック”(田端にあるから)
  • 屋形船ならぬ“船形屋”(船のような建物だから)
  • そのものズバリ“とうふ”(窓がひとつもなくのっぺりとした建物に)

街を見る目が変わったのは、道路斜線とよばれる高さの制限が設定についてだった。よく道路に向かって、斜めに傾斜のあるビルをよく見かけるが、この角度が前面の道路の反対側からまっすぐに引いた直線に沿っているという事実だった。1919年に制定された市街地制定法という法律によって決められて以来、ずっと変わっていないため、日本においては当たり前の風景になっているのだ。(角度は前面道路の反対側から居住系地域では1:1.25、それ以外では1:1.5)

たしかにビルの斜めの線をまっすぐに引くと、道路の端にぶつかるのを見てすっかり嬉しくなってしまった。そして先日見た銀座の風景にも、きちんと理由があることがわかって、これまた感動してしまった。

普段見慣れた街も、当たり前だが、さまざまな法律に基づいて作られている。勝手に作られたように見えても、法律が街を形作っていると言っても過言ではない。

まさに「街は建築法規の生きた教科書」であり、この本はその参考書として最適。ぜひわが区の図書館に常備して欲しい本だ。