恐るべき旅路/松浦 晋也

■科学,龍的図書館

4257037008 恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―
松浦 晋也

朝日ソノラマ 2005-05-21
売り上げランキング : 35047

Amazonで詳しく見る by G-Tools

ちょっとタイトルがおどろおどろしいが、わが国初の惑星探査機「のぞみ」が事実上“失敗”に至るまでの過程を克明に描いた記録である。

アメリカやロシア、ヨーロッパが次々と惑星探査機を打ち上げ、成果を上げていく中、日本は厳しい予算をやりくりして、本当にギリギリのところで研究を続けている様子がよくわかる。

エンジンが想定通り動かなかったため、なんとか燃料を使わずに火星に向かう方法を探り、最終的には、地球の引力を利用してのスイングバイできる軌道を導き出したり、次々とアンテナが使えなっても、わずかに漏れ出る電波を使ってなんとか通信ができないかを模索するシーンは、科学者、技術者たちの意地を見る思いがする。

かろうじて「のぞみ」との交信を実現できた“1ビット通信”と呼ばれた方法は、非常に手間のかかるかかる方法だった。故障によって「のぞみ」と通信できるモードが固定化してしまった。このため詳細な情報を地球に送ることができなくなってしまい、わずかにYESかNOしか応答できない状態となってしまったのだ。

しかも、のぞみと地球との距離が2億kmもあるため、地球からのぞみに電波が飛ぶのに片道11分かかってしまう…往復22分。そしてデータの解析をするのに10分。つまり、たったひとつの質問をして回答を得るまでに30分以上もかかってしまうという状態に…。しかも、1日のうちで、通信できる時間はわずか8時間。10個ほどの質問をして答えを得るので精一杯なのだ。運用担当者にすれば、忍耐力の限界を試されるような通信手段だったという。

それでも最終的には、火星の軌道への投入に失敗し、破棄するにいたったわけで、担当者の無念さは相当なものであっただろう。

お金がないから経験が積めない、経験がないから成功が厳しくなる…単純に失敗を責めるのではなく、そうした現実を政府も国民も認め、次に生かすべき時期に来ているのではないだろうか?

(★★★★☆)