1581 死刑制度を考えてみるけど…

定点観察

 昨日のてらをのコメントがきっかけというわけではないが、昨日から「なぜ『死刑』は隠されるのか」 (原裕司著)を読み始めた。

なぜ「死刑」は隠されるのか? (宝島新書)

 凶悪事件を起こした犯人は極刑(=死刑)に処するということは、ごく当然のことだと思っていた。まだこの本を読んでいる途中だが、
現在もその思いは変わっていない。けれど、ちょっと気になる部分があった。「被害者感情」が一様ではないという点だ。

 もちろん、加害者を憎まない被害者遺族はいない。しかし、加害者を憎み、死刑にしてくれと言うのが被害者遺族の自然の姿だ、というような風潮が今の日本の社会にはある。それに疑問を投げかけるような意見は阻害される。そうやって被害者の遺族は、ワンパターン化した「被害者感情」を持たされているのではないか。被害者遺族の気持ちを、どれだけの人が本当に理解しているのだろうか。
勝手につくりあげられた「被害者感情」が利用されて「極刑」という言葉が強調されているだけではないのか。(p.164)

 確かに凶悪犯罪の被害者になったことがないので、実際の気持ちを理解することは難しい。
被害者遺族の全員が死刑にせよということはないだろう。さらに被害者感情を考えるのならば、
もっと被害者遺族に対する補償制度を充実させるべきではないかと続く。

 死刑制度廃止の議論の際「被害者の人権を守れ」と言われるのをよく耳にする。これは往々にして「被害者の人権を守ること」=
「加害者の処罰(死刑)を厳しくすること」と結びついている点を著者は危惧している。具体例として、
1年間に発生する殺人事件は1000件台で推移していて死刑が確定するのが10人前後であるから、
殺人事件で死刑になる確率は1%に満たない。死刑執行によって被害者遺族が慰謝されるとすると、
殺人事件で遺族が慰謝される確率は1%にしかならないと例を挙げている。さらに、
交通事故の場合はどんなにひどい事故でも死刑は適用されない。つまり、被害者の人権を守ることができないのではないかというのだ。なるほど、
そういう意味では法律のアンバランスさを感じる。
 犯罪の抑止力としての効果についても、一部で疑問視されているのも事実だ。

 じゃあ死刑制度は廃止…とも言い切れない気もしている。昨日まで読んでいた「刑法39条」の問題もあるし、
仮に死刑制度廃止した場合、十数年で出所してしまう無期懲役ではなく、
本当に一生出所できない終身刑を代替の最高刑にすべきだという意見もあるが、凶悪事件を起こした犯人を、
なぜ国家が一生面倒見なければならないのかという疑問も感じてしまう。
 その一方で先に述べた、被害者救済を充実させることに対しては異論はないだろう。犯罪に巻き込まれるということは、
災害とか天災に巻き込まれることに近い。死刑制度を考えていく上では、まずはその点について考えずにはいられなかった。

Posted by ろん