海獣学者、クジラを解剖する。/田島 木綿子

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海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること
田島 木綿子
山と渓谷社 (2021/7/17)

ときどき、クジラが浜に打ち上がったというニュースが伝えられることがある。

クジラやイルカなどの海の哺乳類が、海岸に打ち上げられる現象のことを「ストランディング」というらしい。

ニュースで見ると、ただ「まぁそういこともあるよなぁ…」くらいにしか思ってなかったが、本書を読むと、さまざまなドラマがあるということを教えてくれる。

実は、このストランディングは、海の哺乳類の研究にとても重要な役割を果たしていて、クジラなどが浜に打ち上がったとわかると、著者をはじめ研究者は、一目散に現地に駆けつけて、調査をするのだそうだ。

自治体や状況によっては、すぐに処分されてしまう場合もあるし、残念ながら死んでしまっている場合は、一気に腐敗が進むこともあるから、とにかく時間との戦いになってしまうらしい。

そしてなんとか解剖に着手できたとしても、今度は体力勝負であり、強烈な臭いとも戦わなくてはならないという。

著者は、国立科学博物館の研究員として標本作製を行う一方で、こうしたストランディングや保存されたクジラなどの解剖などを行なっている。

本書後半は、クジラばかりでなく、アザラシやジュゴンといった動物たちの生態などが紹介され、最後は解剖によって明らかになる、環境汚染の深刻さなどに触れている。

ニュースの裏では、こんなことが起きてるんだ…と、いろいろと興味深い話ばかりだった。

とても読みやすく、わかりやすく書かれていて、一気に読めた。

そして、思ったのは、著者は、どんなに過酷な条件でも、ストランディングした動物の解剖に飛んで行く…なんて、本当にこの仕事が好きなんだろうな…と思う。

いや、きっと“仕事”だなんて思ってないんだろうなぁ…と全体を通じて感じた。

Posted by ろん