7日でできる思考のダイエット/佐野 研二郎
実は、今回の騒動で初めて、この本の著者のことを知った。
いまニュースやネットなどで彼の名前を見ない日はないくらいに注目されている。
もちろん、あまりいい意味ではなく、まさに”時の人”だ。
きっかけは、2020年東京オリンピックシンボルマーク(エンブレム)だったが、問題が大きくなったのは、これまでの多数の業績や作品に、盗用の疑惑が指摘されたからだ。
ふと、彼は、これまでいったいどういう考えを持って仕事に取り組んできたのか?…ということが気になり、彼の著作を読んでみることにした。
本書は、著者の仕事を通じて、無駄をなくし考え方のプロセスや時間管理を見直すことで、効率を上げ、よりいい仕事をするためのノウハウが書かれている。
まず気になったのは、デザインとはこうあるべき…みたいな以前僕が指摘したようなことと、きわめて近い…ということだった。
たとえば、アートディレクターやデザイナーとして求められるものは何か?…ということに対する、著者の答えは…
「目的を明確にし、複雑なものをまとめて、簡単に提示すること。」(p.14)…とある。
その力強い表現によってデザインされた広告を「ターゲットに真っ直ぐに突き刺す」イメージです。しかも、極端にいうと「単純すぎるのでは?」と思われるくらい一見、簡単にデザインに定着させることが大切です。この翻訳のジャンプ=飛躍のことを人々はクリエイティブと呼ぶのではないでしょうか。(p.34)
あれ? まるで、僕が思っていたことをそのまま書いてくれているかのよう…。
だとしたら、なぜ、あのようなデザインになってしまうのだろう…と思ってしまう。
そして、トートバッグの件を予感させるようなことも触れられている。
移動中の新幹線や喫茶店でラフスケッチを描き、その絵を写メールで撮影し、それをスタッフに送り、制作をしてもらうことがあります。(p.170)
これは、携帯電話で撮影する写真は解像度が低く、微妙なニュアンスまで伝えられないことを利用し、遠くからでも目立つかどうかを検証するためにしていることだという。
つい細部ばかりにこだわってしまい、全体が見えなくなることを防ぐため…ということだが、ここに今回の問題が起きる可能性を感じた。
つまり、彼のモワッとした発想が、そのままスタッフに伝えられ、そのモワッとしたものを具現化するために、インターネットで集められた素材が、そのまま作品となっていく…。
トートバッグのような”スタッフによるトレース”のような事態は、まさにこういうところから起きたのかもしれない。
全体を通して、書かれていることは、すごく参考になることも多いが、今の状況を考えると、「ん~」って感じにもなってしまう。
書かれていることと、現状に乖離を感じずにはいられないからだ。
短く。早く。60秒以内に返信。30時制限ルール。メールを制するものは、ビジネスを制す。(p.58)…といったような、速決の大切さを説くのであれば、経緯を説明すべきだ。
1企画、最低10案。世の中に出るものの下には、100のボツが眠る。(p.113)…というのであれば、盗用していないという、オリンピックシンボルマーク(エンブレム)のボツ案をきちんと公開すべきだ。
ボツ案を捨ててしまった…とは言わせない。なぜなら… アイデアは捨てるな。アイデアのリユース術。その企画は、3年後に使える。(p.147)…と言っているからだ。