芥川賞の謎を解く/鵜飼 哲夫

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芥川賞の謎を解く 全選評完全読破 (文春新書)
鵜飼 哲夫
文藝春秋 2015-06-19

by G-Tools , 2015/08/18

 

芥川賞は、トップクラスの知名度を誇る文学賞だ。

年2回の発表は、注目を集める。特に、今回は、芸人が取ったと言うことが大きな話題となった。

そして、重ねて不勉強をさらけ出すようで恐縮だが、そもそも、芥川賞が純文学の「新人賞」であること自体、この本で初めて知った。

芥川賞は、純文学の無名もしくは新進作家の創作に与えられる新人賞…つまり、ゴールではなく、作家のスタートの賞なのだ。

にもかかわらず、新人賞なのに騒がれるのはなぜだろうか?

これまでの選評を全て読んだ著者が、芥川賞にまつわるさまざまなエピソードを紹介していく。

興味深いのは、芥川賞は、あくまで新人賞であり続けているということだ。

つまり、対象は「新しい文学」であり、面白すぎたり、うますぎると、「新人らしいみずみずしさがない」と落選するという方針が徹底している。

うまさは通俗性、新鮮味のなさの代名詞となりかねない(p.71)というのだから、けっこう難しい。

これも本書を読んであらためて知ったのだけど、芥川賞は選考内容がすべて公開されている。

つまり選考委員の誰が推薦して、誰が反対しているのかも丸見えだし、その賛成、反対理由もあからさまに伝わってくる。

しかも、選者たちの厳しい表現は、辛辣なものも少なくない。

「言い過ぎじゃないか?」と思ったものもあったが、それは、選者自分自身に対する厳しさでもあるのだ。

厳しい評価は、そのまま自分に向かうかもしれないということをわかった上で、あえて厳しいことを言っている。

相撲にたとえるなら、芥川賞が発表された段階では、選考委員は行司であり、候補者たちは相撲を取る力士なのだが、時間がたってみると、たまたま選考委員という肩書きのある力士と、候補者という肩書きの力士のがっぷり四つの相撲であり、行司は「新しい文学」なのではないか、と思えてくる。(p.230 あとがき)

こうした芥川賞を支える考え方や姿勢が、新人賞でありながら人々の関心を高め、権威を保ち続けているのだろう。

実は、僕自身、芥川賞の作品は、ほとんど読んだことはなかったのだけど、芥川賞にまつわるエピソードを知ると、俄然興味が湧いてきた。

Posted by ろん