不安家族/大嶋寧子
不安家族―働けない転落社会を克服せよ
大嶋 寧子
日本経済新聞出版社
かつて、「亭主元気で留守がいい」というテレビCMがあったことを覚えているのは、僕より上の世代だろうか? 1986年に流行したそうだ。
家族にとって男性が外できちんと仕事をしているということが前提という、当時の典型的な家族の実情を描いたものだった(p.88)
それから26年。バブル景気を経て、日本は大きく変わってしまった。
働きたくても働けない人たちや、たとえ働いていてもいわゆるワーキングプアと呼ばれるような最低限の生活すら維持できない人たちが増えている。正社員といえどもリストラの対象となり、ひとたび、失業してしまうと、なかなか就職できない。
不安が蔓延する世の中になってしまった。
この本は、さまざまな数字や文献、具体例を挙げ、なぜこのようなことになってしまったのか解説し、その処方箋を提言する。
内容は、ちょっと難しい気がしたが、読み進めてみると、読みやすく、わかりやすかった。
読んでいて感じたのは、世の中の状況がどんどん変わっているのに、政策や制度の変更が追いついていないということだった。
たとえば、住宅金融公庫の融資が、1980年度まで単身者は対象外とされていたように、長い間、日本では、「正社員として働く男性稼ぎ主が、結婚し、住宅を取得する」という人生に誘導する政策が取られていた。(p.224)
現在のように、そこから外れる道を選ぶ人が増えてしまうと、この政策は意味をなさなくなってしまう。
生活保護の受給世帯が増えているというニュースを聞くが、ワーキングプアの世帯数と比べると、その数は決して多くはない。
その背景として、国や地方自治体が給付をできるだけ抑えようとする方針が背景にあった。その一方、失業者のうち給付を受ける人の割合が、欧米諸国に比べて極端に少ない。最も高いドイツの94%、最も低いアメリカで41%なのに対し、日本はわずか23%。ちなみに中国は16%。
日本は、国からの支援が諸外国と比べて非常に厳しいのだ。(p.198)
なかなか認められない生活保護。 生活手段を根こそぎ失うことで、結果的に条件が満たされ、いったん受給が認められると、生活のあらゆるサービスが受けられるようになるため、今度は、なかなか抜け出せなくなってしまう。
いろいろと、興味深い数字が並ぶ。
雇用者に占める建設業雇用者の割合が日本は10.1%と、OECD主要国の中で最も高い(p.112)。最も低いスウェーデン4.9%、日本に次いで高いドイツは8.3%。何かというと、いわゆるハコモノに頼る傾向にある理由はそこにあるのだろう。
文部科学省のサイトからの引用で、日本の大学授業料がOECD主要国と比べて高い上に、支援もされていないことが示されていた。(p.183)
また、このようにグラフを見れば、日本の社会政策支出が、高齢者向けの政策に多くを振り向けていることもよくわかる(p.168)。
あきらかに、政策が現実に起きている問題と乖離していることがよくわかる。
こういった状況を目の当たりにすると、筆者の提言する・・・
- 増税による国民負担率の引き上げ
- 高所得世帯から低所得世帯への世代内の所得再配分
- 相続税強化による高齢世代から現役世代への所得再配分
という具体的な解決のシナリオも現実味が感じられてくる。
少なくとも、誰かの問題ではなく、日本の問題であり、自分自身の問題であるということを再認識した。