宙翔ける未来へ/室井 和

■鉄道,龍的図書館

宙翔ける未来へ―ある土木屋の回想記 宙翔ける未来へ―ある土木屋の回想記

文芸社 2004-11
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関係者しか知らないような裏話…特に、ふだんよく利用したり見慣れているものだとなおさらだ。

この本は、東京タワーと東京モノレールの建設に携わったある技術者の自伝だ。いずれのプロジェクトにも関わったそうだが、見どころ(読みどころ)は、東京モノレールの建設から、なんとか経営に乗るまでの苦難の道のりを記したあたりだ。

東京モノレールが計画された当時、これほど規模が大きく本格的なモノレールは存在しておらず、世界初の乗り物だったそうだ。

モノレールが、運河や道路の上を走り抜け、建物をかわすように作られているのは、当然、そういった障害を避けるためであり、ほぼ全線が高架で作られている。 それは「邪魔な障害は跨いじゃえばいい」という発想で作られているのかと思ったら、そう簡単なものではないというのも、本書で初めて知った。

東京モノレール羽田線
東京モノレール羽田線

電車でいうところの線路…モノレールでは軌道桁と呼ばれるが、これが支柱の上に乗っている。基本的に約20m間隔で立つ支柱の場所が問題になってくる。

モノレールを走らそうとする場所に、なんの障害がないのであれば支柱を規則正しく並ぱせればいいが、もちろん、そんなことはあり得ない。その場所に障害があれば、標準的な支柱を立てることができないから、そこを避けることになる。

著者がわかりやすい例えを挙げてくれていたが、踏み出した足の下に水たまりがあれば、それを避けるように足を伸ばして着地させるのと同じように、支柱の位置も変わってくるという。

1本の支柱の位置が変わると、その次の支柱の位置も変わってしまうため、結局モノレール全線に影響してしまうのだそうだ。スパン割りというこの作業は、複数人で行うと最後に矛盾が起きてしまうため、1人でやらないといけないという。

さらに、著者はそうした設計ののち、モノレール開業後は、軌道桁の保守を担当するようになる。

二本並ぶ軌道桁
二本並ぶ軌道桁 幅80cm、高さ140cm

軌道桁の保守のため、モノレール運行終了後の真夜中、軌道桁を“徒歩で点検”したのだという。幅は80cmあるそうで、一瞬、80cmもあれば十分歩いて行けそうな気もしてくるが、最も高いところでは、地上25mにもなると、そうも言っていられないだろう。当然手すりもない吹きさらしの軌道桁は、まさに“平均台”そのものだ。

しかも開業当時、浜松町駅と羽田駅の全長13kmの間には駅が1つもなかったため、途中で休むということができなかったという。一晩で歩ききることができないため、数キロ程度点検すると、途中で引き返したそうだ。

それにしても、いまでは考えられないメンテナンス性の悪さだが、着工から完成まで、工期はわずか1年4ヶ月という、突貫工事では、そういうところまで配慮できなかったのかもしれない。

なんとか東京オリンピックに間に合うよう、開業にこぎ着けたものの、その後、経営難に陥ってしまう。なんとか運行を継続させようという涙ぐましい努力と、羽田空港の利用者数の増大もあって息を吹き返すことになる。

ふだん何気なく乗っているモノレールに、こんな裏話があったとは…モノレールを見る目が変わってきそうだ。