筆談ホステス/斉藤里恵

■文学・評論, 龍的図書館

筆談ホステス 筆談ホステス

光文社 2009-05-22
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「筆談だけでホステスってつとまるのだろうか?」

まず、タイトルを見てそう思ったし、やはり、誰もが思う疑問だと思う。

本書の冒頭で、実際、彼女に対して何度となく、同じ疑問を投げかけられるとあった。彼女の答えは、もちろん、「YES」だそうで、その理由やこれまでの背景など、かなり赤裸々に語られている。

音のない世界、自分の思いを口に出せない世界…ちょっと想像がつかない。

さまざまな偏見もあっただろうし、実際にさまざまな苦労があったようだ。

銀座のホステスとして働くことができるようになるまでには、彼女の努力はもちろんだが、ご両親や友人や周囲の人たちに恵まれたことは、大きな励ましと力になったことは間違いない。心ない人たちとの出会いは「頑張ろう」というバネになり、万引きしてしまったお店の主人に、その店でアルバイトを経験させてもらったことがきっかけで、働く喜びと接客という世界に興味を持つ。

筆談が唯一かつ最大のコミュニケーションの手段となったことで、言葉が研ぎ澄まされてきたのかもしれない。当たり前のように言葉を喋り、当たり前のように文章を書いているが、このこと自体、とても貴重な行動のように思えてくる。

ホステスとしての心得などは、ふだん人とのやりとりで苦労している人たちにも参考になるところもありそうだ。

自信喪失していたお客さんに、彼女が伝えた言葉。

「やり方は3つしかない。正しいやり方、間違ったやり方、俺のやり方だ」

映画「カジノ」で、ロバート デニーロの台詞だそうだ。ほかにも、漫画「ワンピース」に登場した会話など、さまざまなジャンルの言葉をストックしておいて、適切な場面で伝えている。

“辛”という文字を書いた客に、一本線を引き、“幸”としてみせるなど、筆談だからこそ成り立つ会話も、たくさんあるということを知る。むしろ、言葉では伝えにくいことも、文字とイラストを活用して、周囲を盛り上げている。

彼女は、スワンベーカリーの社長との出会いで、障害者と健常者が一緒に働ける職場を作りたいという夢を見つける。

聴覚障害者という大変なハンデを背負っているのに、彼女はどこまでも前向きだし、その障害をむしろプラスに変える力がある。そういった点で、あきらかに恵まれているはずなのに、つまらないことで愚痴や不満を感じてしまう自分をちょっと反省した。

本書の出版については、いろいろな意見はあるだろうし、ホステスとい職業に対する考えもいろいろあるだろう。でも、そもそも「障害者だから」とか「健常者だから」という発想自体、できるだけなくしていけることが、究極的に望まれる姿なのかななんていうふうにも思った。