8126 土浦亀城邸見学

以前、テレビで紹介されていた建築家・土浦亀城と信子の自邸の見学に向かう。
見学は申し込みが必要になるが、1ヶ月1回先着順ということなので、タイミングを逸すると、さらにもう1ヶ月先になってしまうから、これまで、なかなかチャンスがなかったが、ようやく今日行くことができた。
指定時間になり邸内へ。
邸内に上がるには、室内履きか、靴下を履き替える必要がある。
玄関から短い階段を上がるとリビングになっている。
まずは、こちらでこの建物のあらましを伺う。

建物に入って感じたのは、想像以上の開放感だった。
複数の階段で1.5階や2.5階のようなフロアをつないでいる、いわゆる「スキップフロア」構造となっている。
大きな窓から入る光が室内の白い壁に反射して、とても明るい。
話を聞いたあとは、2つのグループに分かれて邸内を見学。まず向かったのは2階の寝室。
おもしろいのは、夫婦のベッドが横に並べるのではなく、頭を突き合わせるように直線状に並んでいるということ。
これによって、より空間が有効活用できている。収納は押し入れではなく造り付け(造作)となっていて、さらにその中に整えてしまえるように、サイズをあわせた収納箱も作ったそうだ。
いまなら無印良品やニトリなどで買えそうなものだが、当時は自ら作るしかなかったのだ。
2階にある、亀城の書斎や自身で撮った写真を現像する暗室などを見て、1階と地階へ。
台所もさまざまな工夫が見られる。
おそらく当時、他に日本では事例がなかったであろうシステムキッチンになっていて、ガスコンロは4口もある。家主の不在時に、お手伝いさんがキッチンの色を黄色にしてしまったという話があって、びっくり。
各部屋にボタンがあって、台所にいる使用人を呼び出すようになっていたり、魚用、パン用といった具合に、食材で分けて使う4種類のまな板が収納できるようになっている。
すぐとなりには使用人の部屋があって、こちらも空間を有効に活用するために、ベッドの下に収納があったり、アイロン台も壁に収納できるようになっていたりと工夫されている。
また、使用人の部屋からは玄関がよく見えるようになっていて、何かあればすぐに出られた。
邸内全体で言えるのは、どこも高い位置に窓を設けることで明るさを確保していることだ。
地下の風呂場も同様で、天窓を設けて地下とは思えない明るさがある。
また、けっして数は多くないものの、各部屋にコンセントがあって、このあたりも先見の明があると感じた。
ただ唯一、どうしても気になったのは、開放感を実現するために不可欠な「階段の多さ」だった。狭い敷地では致し方ないのかもしれないし、ご夫妻どちらもかなりの長寿でおそらく足腰も丈夫だったのだろう。
しかし、どこに行くにしても階段を使わないといけないとなると、けっこう大変だろうと思う。
あらためて振り返ると、1935年(昭和10年)という時代に、いまの「無印良品」や「ニトリ」で見るような機能的な暮らしを、すべて自分たちの手で作ってしまっていた先見性には、ただただ感銘を受けた。
システムキッチンや4口コンロ、壁面収納など、現代でも十分通用するアイデアが90年も前に形になっていたのだ。
ただ、ひとつだけ…
開放感を実現するために家中が階段だらけになっている点は、最後まで気になった。
どれだけ効率的でモダンな設計でも、結局は住む人の「足腰の強さ」があってこそ成り立つ美学なのだと思う。
便利さだけを追う今の住宅にはない、ある種のストイックさのようなものを感じた見学だった。

