ネズミはなぜ回し車で走るのか/中島定彦

■いきもの,龍的図書館

なぜか走っていた…
なぜか走っていた…

ついこのあいだまで、すぐ身近にいた”ネズミ”を見ていて、いつも思っていたことだった。

本書は、まさにタイトルにある問いを、とことん突き詰めて紹介した一冊だ。

回し車を走る理由について、本書ではさまざまな仮説が挙げられている。

なにしろ、ラットやネズミ、ハムスターたちが、その理由を直接教えてくれるわけではない。研究者たちはあれやこれやと仮説を立て、実験を重ねる。

それでも本当の正解はわからない。実験で得られた結果から類推するのみだ。

楽しくて走っているようにも見えるし、運動不足解消のため、あるいはランナーズハイに似た状態になっているようにも見える。どうやら回し車は、彼らにとって本当に楽しいものらしい。

というのも、「何かを見つけようとして走っている」と仮定して複雑なトンネルを用意しても、彼らはやはり回し車を選ぶのだそうだ。

そんななか、もっとも衝撃的だったのは、ある実験の紹介だった。

摂食可能時間を1日30分に制限しただけで、ラットたちはひたすら回し車を回すようになり、ついには餌も食べなくなって、最終的には全個体が死んでしまったというのだ。

「自己飢餓」あるいは「活動性やせ症」と呼ばれるこの現象は、ハムスターやスナネズミ、モルモットなどでも見られるという。死後解剖の結果、胃潰瘍が見つかったそうで、相当なストレスがかかっていたことがうかがえる。

興味深いのは、同じ食事制限があっても、回し車がない環境では死に至る個体はいなかったという点だ。

実験とはいえ、動物たちが亡くなってしまうのは、読んでいて心が痛む。

ただ、現在は倫理的な観点から、死に至る前に実験をリタイアさせるルールがあるという。

30匹すべてが亡くなったというこの衝撃的な実験は、当時の研究者たちにとっても予期せぬ結果だったのだろう。

ネズミのたったひとつの行動を掘り下げるだけで、これほどまでに興味深く、また切実な事情が見えてくる。

生き物の行動を読み解くおもしろさを、あらためて教えてくれる一冊だった。

Posted by ろん