三信ビルディング

建物はあって当たり前と思う節がある。つい、いつまでもあるものだと思ってしまう。
それがなくなると聞くと、慌ててその建物をじっくり見に行きたくなる。そして、そのときになってその建物の本質を知り、急にいとおしくなる。
日比谷にある「三信ビルディング」は、まさにそんな建物で、ちゃんと見に行ったのはなくなると聞いてからだった。
以前からこの前の道は何度となく通ったことはあるし、この建物の存在自体もちゃんと知っていた。なのに建物に踏み入れたことがなかった。なぜならいつまでもあるような気がしていたからだ。70年以上もの間この地にどっしりと腰を据えているんだし、特にこれと言った理由はないけど、なんだかずっとあるような気がしていた。
ところがよくよく調べてみると、耐震上、安全上の問題から解体されるということになったらしい。
初めて入った館内は、すでにテナントのほとんどが引越しを済ませ、がらんとしていた。往年の賑やかさは想像するしかないが、いままで見たことのない荘厳さのようなものを感じた。1階は主に一般のお客さま相手の商品やサービスを取り扱っていて、特徴ある天井と相まって、さながらアーケードのある商店街といった感じ。


エレベーターは、ホールを囲うようにして並び、中央の階段は単純ながらもどこか重厚さを感じさせるつくりになっている。
こうした重厚さは、最近の建物から感じることはできない。最近の建物は、むしろできるだけ薄く、軽くすることばかり主眼に置かれているような気がする。別にそれが悪いというのではなく、こういう選択肢もあるということが忘れられていないか?と思う。



2階部分は、主に事務所が入っていて、各扉には、アパートのような部屋番号が書かれている。
テラスのような通路からは、階下の商店街が一望できる。アーチのたもとには葉をくわえた鳥の彫刻が見られる。
やはり何と言っても、このビル最大の特徴は、この開放感のある天井にあるのではないだろうか?

このドーム状の天井は12あって、かつてここには星座の十二宮がガラスモザイクで描かれていたそうだ。いまでいうところの、お台場にあるヴィーナスフォートそのものではないか? 当時としては相当斬新なアイディアだったに違いない。
館内のサービスに目を移してみる。まず目をひいたのが、エレベーターホール近くにあった洗面台。
あまりエレベーターホールで実際に“洗面”する人はいないだろうけれど、タイル張りの装飾が美しい。
もう一つ目をひいたのが、“メールシュート”。便利そうだが見かけない。関係が、ゴミを集める“ダストシュート”は、古い建物では見たことがある。こちらは最近はまったく見られなくなった。分別収集が進んでいるため、ダストシュートだけではさばききれないせいか?

各階で出された郵便物は地下1階へ
地盤沈下により、建物の前の道路の高さが建物と合わなくなってしまったために、急遽階段が取り付けられたらしい。かなり激しい地盤沈下だったかということがわかる。
桜の花と共に、こうして写真に写るのは、今年が最後となるだろう。
三信ビルディング(現存せず) | |
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設計 | 松井貴太郎 |
所在地 | 東京都千代田区有楽町1-4-1 |
用途 | 商店、事務所 |
延床面積 | 23,771.70m2 |
構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 |
階数 | 地上8階、地下2階、塔屋1階 |
竣工 | 1930年(昭和5年)6月 |
最寄り駅 | 日比谷駅 |
リンク | 解体に関するニュースリリース 建築マップ 都市の記憶 |
建築マップ 三信ビルディング
最終更新日:2009年3月8日
作成日:2006年3月31日
作成者:ろん
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