龍的思考回路 メニュー
はじめての方へ 定点観察…このサイトのメインページです 書店…これまでに読んだ本を紹介します 旅行…見たこと、感じたことをまとめてます 交通…鉄道を中心に交通関係の話題 建築…心に残る特徴的な建物を紹介 社会科見学…好奇心を満たされに出掛けよう ダミー…龍的思考回路のキャラクター いろいろ…その名の通り、いろいろ 地図索引…地図からこのサイトを検索 お問合わせ…何かありましたらお気軽に 鯉降渓谷鉄道…75cm×40cmのNゲージ鉄道模型 はじめての方へ 定点観察 書店 旅行 交通 建築 社会科見学 ダミー いろいろ お問合わせ 龍的思考回路

龍的書店

12月2005年1月(1・2)2月
今月の定点観察へのリンク 今月の二番搾りへのリンク

2005年1月 その1

その1 その2

希望格差社会-「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

山田 昌弘/著
筑摩書房

1,995円(税込)
 最近では「勝ち組」と「負け組」という分け方が多く見受けられる。それらのグループの差がどんどん大きくなっていることが、さまざまな社会問題を引き起こし始めているという話。現在起きている様々な社会問題は「夢」や「希望」を持てなくなったことに原因であるとする主張は、「そんなこともあるものかな」程度に思いながら読み始めた。思い起こせば、「夢」とか「希望」とか大事なものだとは思っても、実は意外と軽視してしまっていたことが多かったかもしれない。読み進めていくうちに、実はその「夢」や「希望」がとてつもなく大きな存在であり、社会秩序というより社会全体を支えているものなのだということを思い知らされる。そして、かつての日本(って言ったって、1990年代はじめくらいのごく最近!)では、問題がありながらも、絶妙なバランスを保ちながら、なんとか国民が希望をもって生きてきたのに、それらが急速に崩れてきたらしい。それが顕著に表れたのが1998年。それ以降は、あらゆる分野で、「勝ち組」と「負け組」の二極分化が始まったのだ。どんどん絶望的な気分になってくる。最後の章では、著者なりの解決策を挙げているが、本書の大部分を占める希望格差社会の状況を知れば知るほど「こんな解決策でなんとかなるものかいな?」と思えてしまうのは、自分でも「希望格差」が広がっていると感じる場面が多く、小手先の改革ではどうしようもないだろうなと感じるからかもしれない。今の日本の状況を憂いている人、今の自分に満足していない人、リスクを回避するために問題を先送りにしている人…必読。非常におもしろかった。
(2005/1/5) 【★★★★★】 −05/1/5更新


禁じられた死体の世界

布施英利/著
青春出版社

1,533円(税込)
  言われてみれば当然だが、身近なところで死体はそう見かけない。毎日、相当数の死体ができるはずだが、それはまず見かけることはない。人間は例外なく死んで死体となるのだから、その分身近であってもいいわけだが、そうにはならない。死体といえば、殺人とか自殺とか例外的なものを連想してしまう。著者はあまりに「死体」と乖離した社会は、何か歪みを生んでいるのではないかという思いがあったと書いている。僕も以前「死体を洗うアルバイト」があるという噂を聞いたことがある。実際にはそんなものはないのだそうだ。そもそも「洗う必要がない」という理由に納得。そんな感じで、どこか死体というものが、特別な存在にあるからこそ、こうした噂話も出てくるのだろう。そもそも「死」が、何を持って定義するのか?という話は、古くて新しい問題だ。心臓が止まっていても脳が生きているという脳死は、医療技術の向上によって、生と死の境界が曖昧になって生まれてきた概念だし、脳だって大脳新皮質が止まっていても脳の中心部は働いているなんて場合もあるらしい。つまり死というものは全体で起きるのではなく部分的に進行する(言われてみれば当然だけど)。そこに人間が勝手に決めた基準を当てはめるのだから、どうしても無理が出てしまうのだろう。
 本書では、あまり知られていない解剖学教室の様子など、興味深い話がたくさん取り上げられている。「4人に一体の死体が割り当てられる」とか「防腐処理の仕方」など…また本書では、何枚かの死体の写真が出ているが、意外と怖くない。何度も触れられているが、死体は禁忌ではなく自然なものであり、全く特別な存在ではないこと、それより見えないことによる恐怖の方が大きいので、怖いと思ったら、むしろきちんとしたいに向き合うことの方がよいのだと。妄想が怖さをかき立てる。なるほどね。これは心霊現象と同じようなものなのかも。とてもおもしろい本でした。

(2005/1/8) 【★★★★☆】 −05/1/8更新


北極と南極の100不思議   上司は思いつきでものを言う
神沼克伊、和田誠、東久美子、麻生 武彦、渡邉 研太郎/著
東京書籍

1,575円(税込)
 以前、国立極地研究所を訪れたこともあって極地には少なからず関心がある。この本はその国立極地研究所の研究者を中心に最新のあらゆる極地に関する研究成果をQ&A形式でまとめてある。2000メートルから高いところで4000メートルもの氷の層に覆われた南極に、琵琶湖の22倍もある湖があるなんて初めて知った。こんなに厚く覆われた氷の下に、水の状態で湖があるなんてとても不思議。まぁ凍っていたら湖とは言わないんだろうけれど。氷に覆われた”グリーン”ランドや、グリーンランドに比べて緑豊かな”アイス”ランドの由来とか、興味深い話が100項目。すべての項目を見開き2ページでまとめているので、ちょっと駆け足っぽい部分もあるけれど。出版元が教科書も作っている東京書籍なので、理科の副読本として子供たちに読んでもらってもいいかもしれない。
(2005/1/8) 【★★★☆☆】 −05/1/8更新
  橋本治/著
集英社

693円(税込)
 著者の経歴を見ても会社勤めをしたようには見えないのに、どうしてここまで会社のことがわかるのだろう?問題は個々の会社にあるのではなく、もっとほかの根本的なところにあるのではないか。実は会社のことを書いているのではなくて、それは「社会」の普遍的な問題を「会社」に置き換えて書いているからなのかな…なんて思ったら「あとがきのあとがき」に、「就職」というものをしたことがないと、告白していた。実際「会社というものの抱える問題」は、会社というものは「拡大していくことが至上命題」であり「会社には、”大きくなる”という動機に歯止めをかけるものがない」ことにあるという。なるほどね。確かに会社が拡大しないなんてあまり考えにくい。けれど、そのために起きる歪みというものは少なからずあるはずで、それに巻き込まれればそりゃ不満は出てくるだろう。この本はタイトルはいささか過激だけれど、実際の中身はもっともだと思わせる部分も多い。けれど、なんだか回りくどい?著者特有の表現というか言い回しで、読み終えると、なんだかわかったようなわからないような、不思議な感覚になってくる。もう何度か読み直すと、わかってくることもあるのかもしれない。
(2005/1/8) 【★★★☆☆】 −05/1/8更新

鉄道 駅と路線の謎と不思議   地下鉄の歴史 首都圏・中部・近畿圏
梅原 淳/著
東京堂出版

1,680円(税込)
 タイトル通り、鉄道のうち駅名や路線名にこだわって様々な謎や不思議に答えている。章立てを見ても「駅名の不思議」、「駅の不思議」、「路線名の不思議」、「路線の不思議」という感じで徹底的。似たような本は、たくさんあるが、それらの本と違うのは、ものすごく「一覧表」が多い。それだけ豊富なデータに裏打ちされているとと言える。路線名の由来を分類した表は、実に26ページにも渡って記載されている。その分写真は多い方ではないので、そういう点でも軽く読み流すというより、じっくり研究するといった感じだ。当たり前のように「東京駅」という駅があるが、そもそもなぜどこでも東京なのに、あの駅に「東京」と名付けられたのか?とか、あまりこれまでの本で紹介されていなかった、「尼崎センタープール前」という阪神電鉄の駅名のセンタープールとは、一般的な泳ぐためのプールのことではなくて、競艇の業界内で使われる専門用語に近い意味なんていうのも、とても興味深い。また時間のあるときに改めて読み返してみたくなる本だ。


(2005/1/8) 【★★★☆☆】 −05/1/8更新
  佐藤信之/著
グランプリ出版

2,310円(税込)
 多少鉄道に詳しい人であればなんてことないことだろうが、ごく当たり前に存在する地下鉄の路線が決定し着工するまでは、もの大変な紆余曲折がある。それは自治体を巻き込んだ関係者の思惑が複雑に絡んでいるからで、非常に”泥臭い部分”である。また着工し竣工してからも、想定とは違った結果にふたたび右往左往することもある。そんな文字通り地下鉄の歴史を首都圏、中部(名古屋圏)、近畿圏で年代別に俯瞰して振り返っていくのがこの本の目的である。建設当時の珍しい写真や、今では想像もできないような計画や構想といったエピソードなど鉄道にかなり造詣の深い人でも必ずや発見や驚きがあると思う。近年作られる地下鉄の多くが第三セクター方式で、いずれも厳しい経営状況が続いている。川崎縦貫高速鉄道が例として挙げられているが、川崎市民一万人アンケートで、予定通り建設すべきがわずか16%弱にとどまるなど、これまで地下鉄は例外なく必要とされ、次々と作られていたが、そろそろきちんと見極めていく時期にきているのかもしれない。第三セクターの場合、最終的な負担は、当然税金によってまかなわれることになるのだから。

(2005/1/8) 【★★★☆☆】 −05/1/8更新

東京湾アクアラインの検証   言葉の常備薬
久慈 力/著
緑風出版

1,890円(税込)
 東京湾アクアラインが当初の計画に比べて利用が伸び悩んでいるという話を聞いて久しい。通行料金の高さなどがネックになっているというが、そもそもこれほどまでに目論見とずれてしまうのは、なにかよほどの計算ミスか、それともずれることは半ば承知の上で、別の意図があったのではないか疑ってしまうのは当然のことだ。著者は「東京湾アクアライン開通一周年記念」の式典に参加したり、本来は多くの経済的波及効果のあるはずの木更津市などを実際に訪れ、そこでの様子などをリポートしている。本書の全体的な内容としてはだいたい予想できる範囲で、役人と天下り企業、ゼネコンといった組織が、こうしたプロジェクトに群がっていて利用者、国民不在…とまぁ、ありがちな構図を検証している。できることならば、この状況をどうやって打破できるのか?という、処方箋を書いて欲しかった。そういった提案については、最後のページに10項目を挙げただけに過ぎなかったのは残念。それに、せっかく木更津駅前で、アンケートなども精力的に行ってはいるものの、たった一人で木更津駅前で集めても25人分程度にしかならず、あまり精度の高い意見は出てこないような気がする。そういう中途半端なアンケートだと、まず「結論ありき」と受け取られかねないので、かえって逆効果の時もある気がする。「東京湾アクアライン」に関するこうした本は意外と少なく着眼点はおもしろいので、ちょっともったいない感じがした。

(2005/1/23) 【★★☆☆☆】 −05/1/29更新
  呉 智英/著
双葉社

1,260円(税込)
 文化放送の番組の中で紹介された本で、おもしろそうだったので、取り寄せて読んでみた。まえがきからして、かなり過激だった。産経新聞の校閲部長を「これでもか」というほどの攻撃ではじまっている。”校閲”部長なのに書いている文章が間違いだらけなのだったら、まぁ責められるのも仕方がないとは思うけど、あまりの扱き下ろしっぷりにかえって気の毒になってきた。普段何気なく使っている言葉を改めてその意味を考えさせてくれる。たとえば、惚気話や恋愛話を聞かされて「ごちそうさま」と言うシーンは、実際にはあまり聞くことはないけれど、まぁドラマなんかではよくあるが、なぜ惚気話や恋愛話を聞かされると「ごちそうさま」なのか?それは谷崎潤一郎の「蓼食う虫」という小説の一文にその理由があると。もともとは「ご馳走様。何を奢ってくださるの?」とごちそうさまのあとに「奢れ」と続くのだ。つまり惚気話や恋愛話を聞かされた一種の罰だったのだ。それがいつの間にやら「奢れ」の部分が省略され、奢られてもいないのに「ごちそうさま」となってしまった。背景がわかると楽しくなってくる。これ以外にも、「女が女性に向かって怒鳴った」と「女」と「女性」で意味は同じなのに使い分けられている話だとか、オサマ・ビンラディンに対して、氏をつけることに違和感を訴える意見が寄せられたものの、彼が法律的に容疑者になっていないし、なんの組織にも所属していないものだから、やむなく氏をつけていたなんていうのも、僕も以前から気になっていた話なので、同じような視点を持ってくれる人がいたことに少し嬉しかった。


(2004/12/18) 【★★★☆☆】 −04/12/14更新