8324 ”利用”される歴史と思想の差

旅行・見学・イベント

タイミングが合わず取りそびれていた夏休みを、今日から3日間、軽井沢で過ごすことにした。

まず最初に向かったのは「万平ホテル」だ。

軽井沢へは過去に何度か足を運んでいるものの、このホテルを訪れるのは今回が初めてになる。

軽井沢で最初の西洋式ホテルとして創業した歴史を持つが、現在の本館を手掛けたのは建築家の久米権九郎である。日光の金谷ホテルと同じ建築家であり、現在の久米設計の創業者としても知られる人物だ。

クラシカルで重厚な空気感が漂うメインダイニングで、名物のアップルパイをいただいた。

万平ホテル
万平ホテル
名物のアップルパイ
名物のアップルパイ

館内のあちこちに施された意匠や展示された古い写真群を眺めていると、数々の著名人に愛され、時代を超えて大切に受け継がれてきたホテルの歴史と美学が心地よく伝わってくる。

歴史を感じさせる展示
歴史を感じさせる展示
ステンドグラス
ステンドグラス

宿泊先にチェックインを済ませた後、車を走らせてまた別の場所へ向かった。

以前、北軽井沢で廃バスの車体を見かけたことがあり、今回も周辺に使われなくなった面白い車両がないか調べていたところ、古い客車があるという情報を得たからだ。

向かったのは、群馬県嬬恋村にある「紀州鉄道軽井沢ホテル」の敷地内である。

そこにはかつて国鉄で活躍した10系客車(オロネ10形)が3両、静態保存されている。

現地に着いてみると、確かに事前情報の通り客車は鎮座していたのだが……正直なところ、ただそこに「存在しているだけ」という印象を拭えなかった。

まず何より目を引いたのは、その塗装の色だ。

なんだこの色は!?
なんだこの色は!?
アルミサッシになってる
アルミサッシになってる

比較的新しく塗り直された形跡はあるものの、本来の国鉄時代の色合いではなく、妙に明るく軽薄な青色で塗られてしまっている。

さらに客室の窓ガラスは現代のアルミサッシへと付け替えられており、オリジナルの持つシックな風合いは損なわれ、全体にかなりの違和感が漂っていた。

紀州鉄道という会社を思い返してみる。

もともと不動産業をメインとする会社が、鉄道会社という「信頼やブランド」を手に入れるため、和歌山県の3キロにも満たないローカル線を運営する御坊臨港鉄道を買収し、「紀州鉄道」と大層な社名に変更して事業を展開してきた経緯がある。

本業の不動産やホテル事業のための「看板料」として、廃止寸前だった赤字のローカル線を維持し続けてきたわけだ。

嬬恋の地に10系客車という貴重な寝台車を持ち込み、ホテルの客室やアイキャッチとして活用しようとした発想は、どこかこの企業の成り立ちやビジネスの手法に通じるものがあると感じてしまう。

ローカル線にしても、この10系客車にしても、解体されずに残っているだけマシであり、存在自体は貴重であることに違いはない。

内部はよく見えない
内部はよく見えない
活用はされていないよう
活用はされていないよう

しかし、そこに「対象への愛着や敬意」があるというよりは、単に看板として「利用している」という感覚が透けて見えてしまうのだ。

もちろん、伝統ある万平ホテルと比べるのは酷であり、自分の偏見も混ざっているのかもしれない。

だが、建築や保存物に向き合う「思い」や「思想」、そして積み重ねてきた背景の深さというものは、ごまかしようのない「差」となって空気感に現れ、自ずと訪れる客の評価へとつながっていくのだ感じずにはいられなかった。

Posted by ろん