8268 引き算の思想とデザインの敗北
検討が重ねられてきた富山空港の新たな愛称が、「富山高山すし空港」に決定したという。
この結果を目にして、薄々予想はしていたものの落胆した。
名称やデザインといった、本質的な個性が問われる領域において、関係者の要望や地域の要素をあれもこれもと盛り込みたくなる心理は理解できる。
しかし、以前から指摘しているように、こういった場面では、要素を詰め込めば詰め込むほど、本来ターゲットに伝えるべきメッセージや個性は曖昧になり、結果として誰の記憶にも残らないものになってしまいがちだ。
そこをグッと我慢し、極限まで要素を削ぎ落とす決断力こそが重要なのだ。
要素の削ぎ落としは、完成した名称やデザインの美しさだけでなく、それを決定していくプロセスそのものの思考の深さを象徴する。
地域の魅力や多様性は、後から文脈やストーリーとして補足すれば良いのであり、最初から全てを前面に押し出してしまえば、視覚的・直感的なインパクトは霧散する。
その失敗の構図をわかりやすく証明しているのが、いわゆる「図柄入りご当地ナンバー」の普及状況だと思っている。
全国のナンバープレートにおける申し込み件数の動向を辿ると、以下のような極端なコントラストが浮き彫りになる。
人気上位(ベスト3)
1位「熊本」:3万3,205件
2位「福山」:1万7,509件
3位「愛媛」:1万5,307件
低迷(ワースト3)
56位「板橋」:1,107件
57位「越谷」:980件
58位「世田谷」:699件
ベスト3に輝いたデザインには、モチーフに対する明確な確信があり、迷いが見られない。
一方で、低迷しているワースト3については、いくつか考察すべき背景が存在する。
世田谷や越谷は、キャラクターや風景を全面的に押し出している点でモチーフ自体は絞り込まれているものの、図柄としての洗練度や、世田谷においては従来の「品川ナンバー」からの変更に対する心理的抵抗といった別の要因も影響しているだろう。

もっとも本質的な問題を抱えているのは「板橋」である。
一目見ただけでは、そこに何が描かれているのかすら直感的に理解できない。
よくよく観察してみると、区の木(ケヤキ)、区の花(ニリンソウ)、区の鳥(ハクセキレイ)という行政的な記号を図案化し、画面上に単に並べただけの構成になっていることがわかる。
まるで区の広報誌の表紙をそのまま縮小配置したかのようなデザインで、住民があえて追加費用を払ってまでこのプレートを選びたいと思える明確な動機が見出せないのだ。
「あれもこれもアピールしたい」という関係者への配慮や事情が優先され、要素を足し算した結果、行政の自己満足と無個性な記号の羅列に陥ってしまう。
富山空港の愛称も、板橋のナンバープレートも、まったく同じ「引き算の欠如」という病理を抱えていると言えないだろうか。
何かを伝えるためのデザインに必要なのは、説明を詰め込む親切さではなく、一言・一目で本質を突き刺す削ぎ落としの勇気なのだと、あらためて痛感する。