8251 トークイベント「ネズミたちの渋谷ハチ公前」

東京大学農学部弥生キャンパスの農学資料館で開催中の特別展示『ネズミたちの渋谷ハチ公前』において、街ネズミ写真家の原啓義氏と、応用動物科学専攻の清川泰志准教授によるトークイベントが行われた。
会場となった農学資料館は人であふれるほどの盛況で、かなりぎゅうぎゅう詰めの状態で始まった。
冒頭、このなかで「ネズミ好きの方はどれくらいいらっしゃいますか?」という問いに対して、ほぼ全員が手を上げたのが印象的だった。
まず、二人の出会いは「ねずみ駆除協議会」からの講演依頼だったそうだ。
その協議会の会長を務めるのが、こちらの清川氏だったというのは意外ではあったが、この協議会に集まる人々は一様にネズミ好きであるという話は、とても興味深い。
実際、清川氏も、研究対象としているネズミに対しては終始「子」と呼んでいたことからもわかる。
原氏が撮影の舞台とする渋谷には、驚くほど多くのネズミが潜んでおり、その光景を「まるでマルチバースのようだ」と表現する。ただし、ネズミの存在はネガティブに捉えられがしがちなため、撮影時は具体的な場所が特定されないよう配慮しているという。
そういった意味では、今回のイベントはかなり異例ということになる。

一方、フェロモンを研究する清川氏によれば、匂いは彼らにとって重要なコミュニケーション手段だ。仲間を識別するだけでなく、匂いで罠の場所といった危険情報も共有している。
研究では、首の根元から分泌される、仲間を安心させる「安寧(あんねい)フェロモン」の存在も突き止められた。ネズミには確かな感情や個体間の相性があり、攻撃的な個体が近づくとその緊張が伝播して集団が一斉に逃げ出すしたり、単独行動に見えてもルートを共有し合う社会性などもある。
都会の片隅、半径200〜300メートルという限られた行動圏で生きる彼らとの共生には、駆除という現実的な課題もついて回る。
清川氏も家の中からは駆除すべき対象となりうるが、無害であることが多い屋外にいるネズミは分けて考えるべきとの立場だ。
質疑のなかで、現在ヨーロッパでは動物福祉の観点から粘着シートによる捕獲を禁止する動きがあるが、この規制の日本への適応について尋ねられた清川氏は、日本に多いクマネズミは非常に警戒心が強いため、シートなしでの駆除は現実的に極めて困難であり、現状では致し方ないとの見解を示した。
将来的には、解明されたフェロモン(草木のような独特の香りがするという)を利用した制御への応用も考えられるようだ。
