8250 蔵造りとガチャガチャ

少し時間があったため、川越の市内中心部に足を運んでみた。平日の夕方という時間帯にもかかわらず、周辺は多くの観光客で賑わっている。
なかでも特に目立つのが、訪日外国人観光客の姿だ。
以前にも感じたことだが、この地域の古い街並みを鑑賞するならば、やはり早朝、あるいは夕方から夜にかけての時間帯がふさわしい。
建物が美しく映えるだけでなく、何より行き交う人の姿が少なく静かに歩けるのがいい。
蔵造りの街並みとして広く知られる一番街商店街だが、その入口付近で強い違和感を覚える光景に出くわした。
交差点に面した最も目立つ場所にある蔵造りの建物の前に、周囲とは明らかに調和しない何かが並んでいる。
遠目にはそれが何であるか判然としなかったが、近づいてみると、それはカプセルトイ(いわゆるガチャガチャ)の筐体だった。

自己主張の強いオレンジ色が、歴史ある建物の軒先にずらりと並べられている。しかも、そこで販売されているのは川越の歴史や文化にちなんだものではなく、どこにでもあるごく普通のラインナップだ。
たしか以前はスポーツ用品を専門に扱っていた店舗だったはずだと思い、よく観察してみると、本来の売り場が半分ほどに縮小され、空いた残りのスペースがカプセルトイに占められているようだった。
ここからはあくまで推測にすぎないが、観光客ばかりが往来するこの立地において、地元向けのスポーツ用品店としての経営を維持していくことは容易ではないのかもしれない。
そこで、無人かつ低コストで効率的に利益を上げられる手法として、カプセルトイの設置を選択したのではないだろうか。
この建物自体は、市指定有形文化財にも指定されている歴史的に重要な「松崎家住宅」である。
おそらくは外観の厳格な維持が求められていて、店舗の構造自体を大きく改造するような行為は許されないだろうが、軒先にこうした移動式の什器を置くこと自体は、規則上の問題はないのだろう。
それにしても、重厚な黒漆喰の蔵造りと、ずらりと並ぶガチャガチャのミスマッチな雰囲気は、どうにも落ち着かない。
美しい景観をそのまま維持してほしいと願うのは通りすがりの観光客の身勝手なエゴにすぎないのだろうか。